ネアンデルタール人の謎、解明進む

 まだ日付は変わっていないのですが、10月19日分の記事として掲載しておきます。表題の記事が『ナショナルジオグラフィック』に掲載されました。近年のネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)研究の諸成果が簡潔に紹介されていますが、全体的に近年のネアンデルタール人「見直し」という研究動向に沿ったものになっています。現生人類(ホモ=サピエンス)のアフリカ単一起源説が圧倒的に優勢になっていった1990年代以降、ネアンデルターレンシスの絶滅とサピエンスの繁栄を説明するために、両者の違いをできるだけ強調する見解が主流になりましたが、そうした見解を主張した著名な研究者の一人であるクリストファー=ストリンガー博士が、「両種の間にこれほど複雑な関係が存在したとは、2~3年前には予想もしなかった」と述べていることからも、ネアンデルタール人「見直し」という研究動向は確たるものになったのではないか、と思います。

 この記事では、ネアンデルタール人と現生人類との境界が、近年における研究の進展にともない曖昧になってきたことが指摘されていますが、それは一つには、この記事でも指摘されているように、ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性が高いと考えられるようになったためです。ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが解析された1990年代後半~数年前まで、ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性は遺伝学的に否定された、との理解が優勢になり、両者の違いの大きさが遺伝的に証明された、と解釈されました。それが覆りそうだということで、ネアンデルタール人と現生人類とを別種とする分類の見直しも必要になるでしょう。現生人類アフリカ単一起源説が圧倒的に優勢になる前のように、ネアンデルタール人と現生人類とをともにホモ=サピエンスと分類する見解が復活するかもしれません。

 ネアンデルタール人と現生人類との境界が曖昧になってきた、と考えられるようになったもう一つの要因は、現生人類に固有と考えられてきた象徴的行動が、ネアンデルタール人にも認められるのではないか、との研究が近年になって増加していることです。それらの中には、ネアンデルタール人が現生人類と接触していたとは考えにくい地域・年代の事例もあり、現生人類とどの程度違いがあったかまだ不明とはいえ、ネアンデルタール人に象徴的行動が認められることはもう確実と言ってよいでしょう。現在とくに注目されるのは、今年になって、更新世末期のヨーロッパの洞窟壁画の一部はネアンデルタール人による所産の可能性がある、と指摘されたことで、もしそうだとすると、現生人類とネアンデルタール人とを区別する重要な指標の一つがほぼ無効となるわけで、その意味でも今後の研究の進展が大いに期待されます。

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