デニソワ人のゲノム配列

 まだ日付は変わっていないのですが、9月4日分の記事として掲載しておきます。デニソワ人(種もしくは亜種区分は未定)の完全なゲノム配列についての研究(Meyer et al., 2012)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となり、日本語の解説もあります。この研究では、デニソワ人のゲノムが高い精度で再解読され、現代人とほぼ同じ水準の、完全に近いゲノム配列が報告されました。これにより、デニソワ人の異型接合体の直接的な推定が可能となり、デニソワ人の遺伝的多様性はきわめて低かった、と考えられます。これは同系交配によるものではなく、デニソワ人集団は規模の小さい状態から急速に拡大し、遺伝的多様性が増大するじゅうぶんな時間がなかったためではないか、と研究者たちは考えています。

 また、デニソワ人のゲノムを現生人類(ホモ=サピエンス)と比較したところ、パプアニューギニアの個人の遺伝子は、比較した他の現生人類よりもデニソワ人との共通遺伝子が多く、大まかな傾向として、デニソワ人の対立遺伝子は、ヨーロッパ人集団と比較してアジアおよび南アメリカの人類集団で多く認められた、とのことです。もっともこれは、現代人(の祖先集団)がデニソワ人から直接遺伝子を受け継いだのではなく、デニソワ人の近縁であるネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類との交雑によるものと考えられる、とのことです。

 またこの研究では、デニソワ人のゲノムにおける対立遺伝子のなかに、現生人類では褐色の肌・髪・眼と関連しているものがあることが確認されました。こうしたデニソワ人と現生人類とのゲノム比較により、現生人類に特有の遺伝的変化を(その全てではないにしても)一覧で示すことも可能になりました。おそらく多くの人が関心を抱いている問題は、デニソワ人やネアンデルタール人と現生人類との間にどのような認知能力の違いがあったのか、ということでしょうが、今後検証が進んでどのような結果が提示されても、それを受け入れるだけの度量を持ちたいものではあります。


参考文献:
Meyer M. et al.(2012): A High-Coverage Genome Sequence from an Archaic Denisovan Individual. Science, 338, 6104, 222-226.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1224344

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