大河ドラマ『平清盛』第37回「殿下乗合事件」

 まだ日付は変わっていないのですが、9月24日分の記事として掲載しておきます。今回は、日宋交易による国造りを進める清盛と、有名な殿下乗合事件での重盛の対応を軸に話が展開していきました。日宋交易に関しては第8回以来久々に周新が登場し、すっかり老けていましたので、比較すると、清盛・盛国のほうが若すぎるのかな、とも思います。もっとも、清盛・盛国は周新より年下という設定でしょうから、きょくたんに不自然ではないでしょうが、もう少し老けた感じを見せてもよいのではないか、と思います。

 日宋交易による国造りを構想している清盛は、兎丸の進言により日本の特産品として金を考え、金を産出する奥州を治める藤原秀衡を懐柔しようとして、秀衡を鎮守府将軍に任命するよう、画策します。秀衡は今回が初登場となったのですが、やはり顔見世ていどの出番で、作中における人物像はまだ不明です。外見からは、智謀に長けた大物として描こうとしているのかな、という印象を受けたのですが、遮那王(義経)を受け入れるまでは出番が少なそうです。その遮那王は次回で鬼若(弁慶)と対峙するようで、今回は清盛が主人公だけに、2005年の大河ドラマ『義経』の時ほど時間は割かれないでしょうが、両者の戦いがどのように描かれるのか、楽しみです。

 後白河院が福原で宋人に会ったという史実も描かれ、兼実の反応は史実を反映したものになっていましたが、経宗をはじめとして公卿たちがあまりにも戯画化されているように思えてなりません。確かに、分かりやすい演出という意図もあるのでしょうが、それにしてもやりすぎでしょう。経宗役の有薗芳記氏の演技力により、それほど不快なものにはなっていませんし、楽しみにしている面もないわけではありませんが、守旧的な存在としての公卿を分かりやすく提示するということであれば、演者の派手な顔芸に頼る演出でなくてもよいのではないか、とも思います。伊豆では頼朝が覚醒しそうなところを見せましたが、本格的な覚醒までもう少し時間がかかりそうです。

 今回のもう一つの軸である有名な殿下乗合事件については、ひねった描き方になっていました。殿下乗合事件は一般に、資盛の一行が基房の従者たちに襲われたことに重盛が激怒し、それを恐れた基房が使者を遣わして重盛の怒りを解こうとするものの、重盛は許さず、数か月後に配下の者に基房の一行を襲わせた、とされています。これが『平家物語』では、激怒したのは資盛の祖父である清盛で、重盛はむしろ報復を諌めるというか批判的な立場を表した、という話になっており、『平家物語』における創作の一例として有名です。

 今回は、重盛が報復の実行犯ではないという点では『平家物語』に準拠していたのですが、同時代人には重盛による報復と認識されたという点では史実に沿ったものになっていました。報復を実行したのは、都での平家一門の威信低下を見過ごすわけにはいかないという清盛の意向を汲み取った時忠で、今回の描き方では、禿を使い始めたのも時忠のようです。殿下乗合事件や禿など、これまでの物語では平家の暗部とされていたことは、時忠が実行者とされており、時忠は平家の汚れ役を担うという設定になっています。おそらく今後も、時忠は汚れ役として描かれるのでしょう。次回にて有名な発言がどのような状況でなされるのか、楽しみです。

 基房に報復しようとせず、摂政の基房への礼を欠いたとして資盛を叱る重盛にたいして平家一門は不満なようですが、私心によって棟梁は動くべきではない、として重盛は報復しようとしません。ところが数か月後に清盛の意を汲んだ時忠により基房の一行が襲撃され、周囲の人々はそれを重盛による報復と理解します。すると、公卿たちは重盛を畏怖するようになり、平家一門は重盛を見直して心服し、父の重盛の仕打ちに恨めしそうな表情を見せていた資盛は、笑顔で重盛に感謝します。重盛の妻の経子も当初平家一門の反応を見て喜んでいましたが、どうも重盛の様子がおかしいことに気づきます。

 一人になり写経をしていた重盛は、自分の選択では平家一門の威信が下がり、平家一門の統率もままならかったのに、父の清盛の差し金により基房の一行が襲撃されると、平家の威信が高まり、平家一門の棟梁たる自分への信頼が強まったことから、自分は棟梁の器ではなく、父のようにはなれない、という屈辱を味わい、荒れます。そこへ経子が現れ、重盛を慰めるのですが、ここでは今回前半で経子が努めて重盛の考えを理解しようとするところが描かれた場面が活きており、なかなか上手い構成だったように思います。重盛・経子夫妻は、癖のある人物の多いこの作品にあって、珍しく真っ正直というか清い人物として描かれており、役者の好演もあって、共感のできる人物になっています。

 今回は、殿下乗合事件をかなりひねって描いたので、批判が多そうではありますが、大物の清盛、平家一門の棟梁としての重圧に押しつぶされそうになる生真面目で小物の重盛、本音でしたたかに生きる時忠、生真面目な重盛が平家一門の弱点だと気づいていた陰湿な基房など、これまで描かれてきた人物像が活かされており、連続ドラマとしては自然な流れになっており、なかなか上手い構成になっていたのではないか、と思いますし、かなり楽しめました。また今回は、平家一門の軟弱化と驕りも描かれ、平家没落が近づきつつあるのだな、と予感させる内容にもなっていました。まだ早いのですが、そろそろ最終回も意識させられるという感じで、寂しさもあります。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック