『イリヤッド』における物語単位での区分(後半)

 まだ日付は変わっていないのですが、9月12日分の記事として掲載しておきます。ネタをネタでつないでいくという物語の構造になっている『イリヤッド』全123話を、話のまとまりを単位として厳密に区分するというのは難しいでしょうが、大まかな話のまとまりは区分できるので、以下に区分私案を掲載してみます。前半の区分についてはすでに私案を掲載しているので、
https://sicambre.seesaa.net/article/201208article_33.html
今回は後半となります。以下、それぞれの話が単行本のどの巻に収録されているかについては、
http://www5a.biglobe.ne.jp/~hampton/iliad001.htm
を参照してください。


(08)66話~71話
 入矢はベルリンに行き、シュリーマンのフィルムを入手します。この物語の冒頭において、秘密結社が隠ぺいしようとしてきた真実が、人類にとって衝撃であることが、レームにより語られます。また、この物語の最後にて、入矢は瑠依との会話から、アトランティスの場所についてかなりの程度確信を抱くようになります。

(08-1)72話
 入矢側の人間が誰も登場しない異色の話ですが、ネアンデルタール人が人類最大の禁忌に関わっていることが明示された重要な話となっています。この72話とその前の71話にて、アトランティスの場所と人類最大の禁忌について、かなりの程度手がかりが提示されていることになります。

(08-2)73話
 ディオドロスの著作がアトランティス探索において重要であることが改めて語られるとともに、嫌味で高慢というだけではない、レイトン卿の人となりが見られます。

(08-3)74話
 入矢は高校時代の恩師と再会し、アトランティス探索には旧約聖書(ヘブライ語聖書)が重要ではないのか、との示唆を受けます。謎解きの進展もありましたが、基本はヒューマンストーリーとなっています。

(09)75話~87話
 入矢はシュリーマンのフィルムに隠されていた映像を手がかりに北アフリカへと向かい、モロッコのティトゥアンでソロモン王の壺を発見します。この物語にて入矢はアニタ=ロッカと出会います。この物語は、ヘラクレスの謎に入矢たちが挑むとともに、ヘラクレス説話を踏まえた構造になっているのが特徴です。この物語にて謎解きが大いに進展しましたが、秘密結社の殺し屋バシャの話など、ヒューマンストーリーとしてもたいへん面白くなっており、作中の長編ではもっとも出来がよいのではないか、と思います。

(09-2)88話
 入矢はネアンデルタール人研究の第一人者に会いに行き、世界最古の神である熊を思いついたのがネアンデルタール人である可能性を考えるようになります。謎解きも進みましたが、ヒューマンストーリー的性格が強くなっています。

(10)89話~97話
 入矢はバトラー神父と出会い、ユカタン半島にいるゼプコ老人を訪ね、三人でテネリフェ島に行き、アトランティスの重要な手がかりとなる、「冥界の王」の墓であるピラミッドを調べます。入矢たちはそこで、秘密結社の襲撃から何とか逃れ、青銅製の斧を入手しますが、その斧の年代は紀元前5000年であり、通説よりもはるかに古い時代に青銅器を作っていた文明の存在が確認されます。

(11)98話~106話
 入矢はゼプコ老人・呉文明(リチャード=ウー)とともに、始皇帝陵に侵入してアトランティスの手がかりであるソロモンの玉(杯)を探します。ソロモンの玉はすでに始皇帝陵から持ち去られていましたが、ルスティケロが始皇帝陵に残していた重要な手がかりを入矢たちは発見します。

(11-1)107話
 秘密結社とバチカンとの関係とともに、秘密結社が隠ぺいしてきた真実について言及されています。また、秘密結社の内紛も描かれ、終盤の展開の起点にもなっています。

(11-2)108話
 アーサー王伝説について新たな情報が提示され、アーサー王伝説とその研究者であったルスティケロがアトランティスと深く関わっていることが改めて確認されます。

(12)109話~115話
 エンドレ財団に秘密結社と通じている者がいるのではないか?との疑惑をめぐる騒動を契機として、物語が大きく動きます。この騒動の過程でアトランティス=トロヤ説が提示され、赤穴博士もこれを支持しますが、入矢はアトランティスがスペインとモロッコの両岸に領土を有する文明だった、との自説を追求していくことを決意します。

(13)116話~123話
 クロジエの死を契機としてレイトン卿と入矢が提携し、物語は一気に終息に向かいます。人類最大の禁忌について曖昧なところも残され、最終回の掲載号を読んだ時には失望しましたが、連載完結から5年以上経過した今となっては、全体的にはなかなか上手くまとめられた最後だったのではないかな、とも思います。

この記事へのコメント

山猫
2012年11月14日 22:41
はじめまして、山猫といいます。
 『イリヤッド』やアトランティス伝説に興味がありますので、ときどき寄らせていただいています。

 ところで、トム=ノックスの『ジェネシス・シークレット』という小説をご存じですか?
「人類と神との関係」「宗教誕生にまつわる重大な秘密」「それを隠蔽しようとする殺人集団」
 など、どこか『イリヤッド』風味の内容です。

 終盤では「秘密」の詳細も明かされており、興味深い解釈が示されています。機会がありましたら読まれてみてください。
2012年11月15日 22:31
はじめまして。今後ともよろしくお願い申し仕上げます。

面白そうな本ですね。探して読んでみることにします。

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