大河ドラマ『平清盛』第33回「清盛、五十の宴」

 まだ日付は変わっていないのですが、8月27日分の記事として掲載しておきます。今回は、平家の栄華を摂関家との対抗という関係で描くとともに、今後の展開への伏線を張っており、なかなか面白くなっていました。音戸の瀬戸の開削・大輪田泊の改修・厳島神社の修復増築など、清盛は自分の思い描く国造りへと邁進し、それが摂関家の基房・兼実には面白くありません。革新的な清盛と守旧的な基房・兼実(に代表される平家以外の公卿)という対比になっているのですが、清盛と義朝を宿命の好敵手同士として長く描いてきたことや、後白河と清盛との即位前からの因縁を描いてきたことなどとともに、テレビの連続歴史ドラマとしてはこれでもよいのかな、とも思います。

 厳島神社に赴き新たな国造りへの決意をますます確固たるものにした清盛が帰京すると、平家一門は清盛50歳の祝宴を開きます。そこへ清盛の弟の忠度が登場し、宴はますます盛り上がります。ところが、宴に招かれていない基房・兼実が訪れたことで、宴の場は白けてしまいます。基房・兼実は平家一門に摂関家の優越を見せつける目的で宴の場を訪れており、寺社の造営は筋目正しい家柄の雅を解する者が行なうのが道理だと言って、平家一門を挑発します。ところが、清盛はまったく動じるところがなく、基房・兼実は平家一門の用意した豪華な食材と器に圧倒されます。

 すると基房・兼実は、舞を献上したいといって優雅な舞を披露し、平家一門を圧倒しようとしますが、清盛に命じられた経盛・重盛・宗盛も基房・兼実に劣らない舞・笛を見せて、基房・兼実の目論見は失敗します。すると基房・兼実は、今度は和歌で平家一門を圧倒しようとします。おそらく、第17回にて清盛がもはや歌とは呼べない歌を詠んだことから、和歌ならば平家一門を圧倒できる、と基房・兼実は考えたのでしょう。ところが、清盛に指名された優雅とは無縁そうな忠度が、兼実と互角に歌を詠み合ったため、またしても基房・兼実の試みは失敗します。

 追い詰められた基房・兼実は、しょせんは公家の物真似だと負け惜しみを言うのですが、清盛に見せられた厳島神社の修復増築の構想図を見せられ、そのあまりの壮大さに圧倒されて、屈辱を味わって退散します。正直なところ、守旧的な旧来の支配者と志の高い枠組みに縛られない成り上がり者の改革者という、陳腐な対比となった宴とも言えるでしょうが、歌人として優れていた忠度を上手く話に活かすなど、登場人物の個性をはっきりと描いた話になっていたので、それほど不満はありません。日招き伝説をこの宴と絡めてきたのはひねった設定ですが、これも伏線なのかもしれません。

 最後に、清盛が発病するところで今回は終了するのですが、今回は宴以外に今後の展開の伏線となる場面がいくつか描かれました。今回が初登場となった八条院(暲子内親王)は、近衛帝崩御後の後継者選定会議で名前だけが出ていました。八条院は鳥羽院と美福門院(得子)との間の皇女で、両親から譲られたものも含めて膨大な所領を有し(八条院領)、それは後に大覚寺統の重要な経済基盤となりました。平安時代末期の重要人物である八条院が娯楽映像作品に登場することはあまりないようなので、その意味では貴重な作品になったと言えそうです。この作品では、八条院は母の美福門院を想起させる人物像になっており、やや安直と言えるかもしれませんが、ともかく八条院が登場するのは喜ばしいことです。

 八条院の周囲には反清盛的な志向の人物が集まっていたようですが、八条院自身はどのような考えだったのかというと、よく分かりません。今回見た限りでは、この作品において八条院はその母と同じく気の強い人物として描かれるようなので、反清盛という役割を明確に担うことになるのかもしれません。その八条院の猶子である以仁王も今回が初登場となり、いきなり宴の場で後白河院に自分こそ帝に相応しいと言ってしまうような設定は残念でしたが、以仁王の立場を示すために仕方のないところもあるでしょうか。滋子(建春門院)は我が子の憲仁親王(後の高倉帝)の立場を万全とするために、兄の時忠に命じて以仁王の親王宣下を阻み、これが後の以仁王挙兵の遠因となります。後に以仁王の挙兵に加わり敗死する源頼政も、逸る息子を抑えつつも、平家に心服しているわけではなさそうな様子が見られ、今後の描写に注目しています。その頼政は、赴任先の伊豆で頼朝が茫然自失の状態なのを見て、改めて清盛の力を思い知らされます。

 宴の場にて初登場となった重盛の三人の息子たちは維盛・資盛・清経なのでしょうが、今回は三人とも重盛と経子の間の子のような描写でした(じっさいには清経のみ)。この作品に登場する重盛の子供は全員経子が母ということになるのでしょうか。あるいは、経子が実子ではない維盛・資盛も我が子として育てる決意をすることで、宗子(池禅尼)→時子→経子という三代にわたる女性の決意を描くという構図なのかもしれませんが、どうも重盛の息子たちはそこまで深く描かれないような気もします。史実の経子はすでに憲仁親王の乳母となっており、時子の息子たちとそうではない重盛との融和を清盛が意図していたのではないか、と思います。

 今回は常盤とその息子の牛若(後の源義経)も登場し、牛若は宴の場にも現れたのですが、牛若は清盛を実父と思い込んでおり、庭で知盛・重衡と仲良く遊びます。平治の乱後しばらく、常盤が清盛の庇護下にあったとしたら、牛若が清盛を実父と思い込む可能性も皆無ではないかもしれませんが、知盛・重衡と仲良く遊んでいたというのは、さすがにやり過ぎのように思います。何よりも、こうした描写は2005年の大河ドラマ『義経』のパクリと言われても仕方のないところで、かりに脚本執筆の時点ではそうした意識がなかったにしても、『義経』で好評だったとは思えないそのような設定を、なぜNHK側が再び採用したのか、どうも納得できません。まあ、不満もありましたが、全体的にはなかなか面白い回でした。

この記事へのコメント

ダ・ダニエル
2012年08月26日 23:09
こんにちは。清盛もいつの間にか50なっていたんですね。松山ケンイチがそんなに老けて見えないので驚いてしまいました。まぁ息子逹もとっくに一人前なのですから不思議ではないですね。毎回色々な事件やらエピソードや今後の伏線になりそうなことが盛り込まれていて、もっとこの時代に詳しければ、より楽しんで観れるのかな…と思っています。現状、完全に予習不足です。ただ、次回は夢の中とはいえ、白河院が再登場するようなので、伊東四朗ファンの私としては楽しみです。
みら
2012年08月27日 11:02
こんばんわ
今回は面白かったですね(裏が気になる)この時代らしさがいやらしいくらい盛り込まれていていい感じでした(笑)。今後いよいよ源氏が中心になってゆくんですね~。
なんだろー今さらですがやはり・・主役が違う人だったらよかったのにと思います(笑)昨日の踊り見ていて思いました。
2012年08月27日 20:14
この段階で白河院が回想ではない場面で登場するとは思いませんでした。物の怪の血という設定は最終回まで引っ張りそうです。
みら
2012年08月27日 20:45
こんばんわ

今回も最悪の視聴率となってしまいました~。
昨晩はサッカーがありましたからね、でも再度一桁になるとは・・。
さほど、つまらないとは思わないどころか、よくぞなんとかここまで引っ張ってきたな~と思うくらい創意工夫、奇抜、オリジナルらしさがあって、まだ終わってないけど感慨深いものがあります。長かったような、短かったような・・。
(前回のコメント「踊り」は「舞い」に訂正)
2012年08月28日 20:21
今後、視聴率一桁の回が増えていくでしょうね。

私は、低視聴率でも視聴を続けますが。
みら
2012年08月29日 00:18
あら、もちろん私も御一緒いたします。
『大河ドラマ』そのものがなくなる日が来るまで。

劉さん最近はなぜ投稿を早めに行うようになったのですか?
深夜は熟睡中なの?

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