青木健『古代オリエントの宗教』

 講談社現代新書の一冊として、講談社より2012年6月に刊行されました。都市文化・文字文化が古くから栄えたメソポタミア平原・イラン高原という「東方地域」において、「聖書ストーリー」はいかに解釈・受容され、「東方地域」の在来の信仰はどのように変容していったのかという観点から、1~13世紀にかけての「東方地域」の精神史が概観されています。本書を読むと、地中海(東岸)発の「聖書ストーリー」の影響力がきわめて強いことが印象に残り、この時期の「東方地域」の宗教・思想は、基本的には西から東へという流れになります。この流れの例外はローマ帝国で広く浸透したミトラ信仰で、本書では第四章で取り上げられています。

 本書で取り上げられる「東方地域」の宗教は、「聖書ストーリー」に圧倒されてしまい、現代ではもはや信者がいないか、すっかり衰退してしまいました。本書では、ゾロアスター教の「開祖」であるザラスシュトラが最終的に「聖書ストーリー」に吸収された13世紀に、「聖書ストーリー」の「宗教」が完成した、とされます。しかしそれは、都市文化・文字文化が古くから栄えた「東方地域」において花開き、多様な「聖書ストーリー」の解釈・需要の見られた豊かな宗教・思想的土壌の固定化・停滞も意味し、その固定化した枠組みは現代でも「東方地域」において生きています。

 一方、「西方地域」であるヨーロッパでは、「東方地域」よりも「聖書ストーリー」が抵抗なく受容され、「東方地域」よりも早く宗教・思想の枠組みが固定しました。しかし本書では、近代化により「西方地域」が前近代の宗教・思想的枠組みから抜け出したことが、示唆されています。「聖書ストーリー」の拡大・受容・変容という観点から、「東方地域」の精神史を概観するという本書の試みはなかなか面白く、ゾロアスター教に関する見解など、自分の不勉強を改めて痛感させられることもあり、かなり有益だったように思います。私は、二元論的なゾロアスター教が、後世の「聖書ストーリー」の一神教に影響を与えた、と考えていたのですが、このようなゾロアスター教観は、「聖書ストーリー」の東進によるゾロアスター教側の受容・変容を、初期ゾロアスター教に投影したものであるようです。

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