佐藤次高『イスラームの「英雄」サラディン』第2刷

 講談社学術文庫の一冊として、2011年11月に講談社より刊行されました。第1刷の刊行は2011年10月です。本書の親本は、講談社選書メチエの一冊として1996年に講談社より刊行されました。巻末の解説によると、著者は昨年(2011年4月)急逝したとのことです。本書は、寛大な英雄としてイスラーム社会だけではなくヨーロッパのキリスト教社会においても賞賛され続けてきたサラディン(サラーフ=アッディーン)の伝記ですが、伝統的なサラディン賛美ではなく、同時代の史料から当時の社会情勢とサラディンの人物像・行動意図に迫っています。

 そのため本書では、寛大とされてきたサラディンの人物像について、寛大とされる言動はイスラーム社会の慣行に従ったものであり、サラディンの個性として特筆されるようなものではないことや、サラディンが無条件に寛大だったわけではなく、時として厳しい処分を下していたことも指摘されています。また、サラディンが完全無欠の英雄ではなく失敗もあったことや、アイユーブ朝の政治体制が未完であり、晩年には指導力に精彩を欠いていたったことも指摘されています。もっとも、欠陥・失敗はあるにしても、本書を読んで改めて、サラディンが英雄であることは印象づけられました。注・地図・年表もなかなか充実しており、良書だと思います。

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