石刃の起源
石刃の起源に関する研究(Wilkins, and Chazan.,2012)の要約を読みました。この研究では、以前このブログで取り上げたカサパン1遺跡(Kathu Pan 1)の石器が分析され、同年代と推定される他の遺跡との比較から、石刃の多地域起源説が提唱されています。カサパン1遺跡は南アフリカ共和国北ケープ州にあり、石刃の出土した遺跡としては最古例の一つとなり、また最古のフォーレスミスインダストリーが見られる遺跡ともされています。カサパン1遺跡は1978年に発掘が始まり、1980年代を通じて発掘が続けられ、2004年には新たな発掘が行なわれました。
この研究では50万年前頃のカサパン1遺跡4a層の石器群が分析されており、剥離により広範囲にわたって調整された石核から、直接的な硬質ハンマー打法により石刃が体系的に取り出されていて、これらの石刃のいくつかは尖頭器へと修正されていることが指摘されています。カサパン1遺跡4a層の石刃と、年代の近い、ケニアのクエセム洞窟のカプサリン層およびイスラエルで出土した石刃を比較すると、中期更新世の前半期には多様な石刃生産戦略が採用されていたのではないか、と推測されます。そのためこの研究では、石刃生産のための薄片技術は、複数の場所・年代で発明されたのではないかと主張されており、石刃の多地域起源の可能性が指摘されています。
かつては、石刃が現代的行動・行動学的現代人の指標の一つとされていましたが、この研究で示されているように、石刃の起源が解剖学的現代人の出現よりもずっと前にまでさかのぼったので、今では石刃を現代的行動の指標とするのは難しいでしょう。おそらく、装身具・埋葬・壁画など現代的行動の指標とされる諸々の事象は、早期出現説で主張されるように散発的に出現したのであり、後期出現説で主張されるような、50000年前頃に一括して出現したという仮説は、成立しないのでしょう。当然のことながら、後期出現説の一部で主張されているような、50000年前頃の神経系の突然変異が現代的行動を可能とし、解剖学的現代人は飛躍的に発展した、という仮説も否定されるでしょう。
参考文献:
Wilkins J, and Chazan M.(2012): Blade production ∼500 thousand years ago at Kathu Pan 1, South Africa: support for a multiple origins hypothesis for early Middle Pleistocene blade technologies. Journal of Archaeological Science, 39, 6, 1883–1900.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2012.01.031
この研究では50万年前頃のカサパン1遺跡4a層の石器群が分析されており、剥離により広範囲にわたって調整された石核から、直接的な硬質ハンマー打法により石刃が体系的に取り出されていて、これらの石刃のいくつかは尖頭器へと修正されていることが指摘されています。カサパン1遺跡4a層の石刃と、年代の近い、ケニアのクエセム洞窟のカプサリン層およびイスラエルで出土した石刃を比較すると、中期更新世の前半期には多様な石刃生産戦略が採用されていたのではないか、と推測されます。そのためこの研究では、石刃生産のための薄片技術は、複数の場所・年代で発明されたのではないかと主張されており、石刃の多地域起源の可能性が指摘されています。
かつては、石刃が現代的行動・行動学的現代人の指標の一つとされていましたが、この研究で示されているように、石刃の起源が解剖学的現代人の出現よりもずっと前にまでさかのぼったので、今では石刃を現代的行動の指標とするのは難しいでしょう。おそらく、装身具・埋葬・壁画など現代的行動の指標とされる諸々の事象は、早期出現説で主張されるように散発的に出現したのであり、後期出現説で主張されるような、50000年前頃に一括して出現したという仮説は、成立しないのでしょう。当然のことながら、後期出現説の一部で主張されているような、50000年前頃の神経系の突然変異が現代的行動を可能とし、解剖学的現代人は飛躍的に発展した、という仮説も否定されるでしょう。
参考文献:
Wilkins J, and Chazan M.(2012): Blade production ∼500 thousand years ago at Kathu Pan 1, South Africa: support for a multiple origins hypothesis for early Middle Pleistocene blade technologies. Journal of Archaeological Science, 39, 6, 1883–1900.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2012.01.031
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