氣賀澤保規編『遣隋使がみた風景-東アジアからの新視点-』

 八木書店より2012年2月に刊行されました。倭と隋との関係について、東アジアという枠組みから考察するという、現代日本ではすっかり浸透した視点による論文集なのですが、複数の分野の研究者が加わっているということもあり、陳腐な印象は受けませんでした。図版もなかなか豊富ですし、巻末には、『隋書』や『日本書紀』といった遣隋使関連の史料が採録されており、新聞記者によるコラムも掲載されていますから、一般の読者にも配慮した内容と言えるでしょう。また、450ページにも及ぶ大部の書でありながら、価格は税込み3990円に抑えられており、この点でも良心的と言えるでしょう。

 倭と隋との関係については、倭から隋への使者の派遣回数など、『隋書』と『日本書紀』との一致していない点を中心に、まだ不明なところが多々あります。本書の各論文は、そうした謎について明快・爽快な答えを提示し、派手に一般受けするという内容ではないのですが、幅広い視点から、現時点で判明していることや可能性の高い想定を解説しており、倭と隋との関係について関心のある人にはお勧めの一冊です。ただ、歴史学においても一般においても、すっかり東アジアという枠組みが定着した間のある現代日本社会では、今後、東アジアという枠組み自体の見直しが必要なのではないか、とも思います。

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