大河ドラマ『平清盛』第22回「勝利の代償」
保元の乱は後白河帝方の勝利・崇徳上皇方の敗北で終結し、崇徳上皇方の要人はそれぞれ落ち延びていきます。保元の乱では天皇家・摂関家・武家とさまざまな一族が分裂したため、一族内の勝者と敗者との関係・敗者の処遇が今回と次回の主題となります。主人公側となる伊勢平氏一門では、伊藤忠清が忠正を捜索して見つけ、都の伊勢平氏の館に連れてきます。おそらくじっさいには清盛と忠正の関係は疎遠で、長年頼長に仕えてきた忠正は敗者の頼長にはもはや頼れないために、都で最大の武士勢力の棟梁である甥の清盛を頼ったのでしょうが、この作品では、ずっと反目しあっていたとはいえ、直前まで忠正は清盛と行動を共にしており、伊勢平氏一門のためにあえて分の悪い上皇方についたという設定になっています。武士の世は近いとやや浮かれている清盛は、忠正の助命を信西に頼みますが、議定の結果は斬首との命でした。
おそらく疎遠な関係だったろうとはいっても、史実の清盛も叔父を斬ることには躊躇い・苦悩があったでしょうが、この作品では上記のような設定になっており、忠正の斬首を命じられた清盛の苦悩と成長をより強調しようという意図の脚本になっているのではないか、と思います。次回まで見てみないと、この創作が成功だったか否か、判断の難しいところですが、今回までは少なくとも失敗ではないように思います。清盛にとって身近な人物だった乳父の平盛康には見せ場がほとんどなかったのですが、おそらくじっさいには清盛と疎遠だったであろう忠正には、かなりの見せ場が用意されたことになります。おそらく構想の時点で、忠正を深く描くことは決まっていたでしょうから、忠正が斬首される次回は大いに注目しています。
河内源氏では、義朝の正妻である由良の命により、保元の乱で敗者となり逃亡していた為義が見つかり、都の河内源氏の館に引き取られます。為義はすっかり観念しており、息子の義朝に河内源氏の命運を託そうと考えているようです。義朝は第4回の殿上闇討事件のさいに、自分が父を守ると力強く宣言しました。その後、為義・義朝父子は対立して袂を分かちましたが、義朝が為義の斬首を命令されてどのように対応するのか、河内源氏の話は主人公側の伊勢平氏の話よりも出来のよいことが多いだけに、大いに注目しています。
天皇家では、敗者となった崇徳院が山へと逃げますが、ついに観念して都に戻り、仁和寺で出家します。生まれてからというもの、何一つ思うままにならないことを嘆く崇徳院ですが、どうも流罪になるとは考えていないようで、流罪を避けるための出家でもあったのでしょう。おそらくじっさいにも、保元の乱直後の崇徳院は、流罪を覚悟していたわけではなかったように思います。しかし信西は、天皇家嫡流で皇子もいる崇徳院に復権の恐れありとして、崇徳院の流罪を主張し、後白河帝も同意します。じっさいにも、守仁親王(後の二条帝)が即位するまでの中継ぎで、皇太子にならないまま即位するなど権威に欠ける後白河帝にとって、崇徳院が危険な存在であることは確かで、今回の描写は妥当なところだと思います。
今回私がもっとも注目していたのは頼長の最期で、頼長は書籍を拾おうとしている最中に矢に当たり、重傷を負います。学問に熱心だった頼長の個性を活かした脚本・演出だったように思います。重傷を負った頼長は、難を避けて奈良にいる父の忠実に助けを求めますが、自らも謀反人とされ、摂関家が解体されることを恐れる忠実は頼長を見捨てます。父にも見捨てられたことを悟った頼長は、舌を噛み切って自害します。断腸の思いで頼長を見捨てた忠実の元に、頼長が飼っていた鸚鵡が弱々しく地面に降りてきて、「チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ」と瀕死の状態で鳴きます。地面に横たわる鸚鵡を忠実が拾い上げると、すでに鸚鵡は死んでおり、忠実は愛息を見捨ててしまったことを後悔し、号泣します。おそらく、鸚鵡が頼長の一行に付いていったか、頼長一行の誰かが鸚鵡を連れていき、瀕死の頼長が父上と何度も呼ぶのを鸚鵡は聞いていたのでしょう。
焼け落ちた頼長の邸宅を訪れた信西は、頼長の日記を読み始めます。そこには息子たちへの訓戒が記されており、頼長の忠心と政治への情熱を知った信西は、感慨に浸るとともに、何か決意したような表情を見せます。かつて、当代を代表する学才の持ち主同士ということで互いに認め合った信西と頼長は敵味方に分かれ、信西は勝者となり、頼長は敗者として死亡しました。今後信西は、自らの理想とする政治を進めることになるのでしょうが、頼長の志も継承するということになるのでしょう。また信西は、頼長を死に追いやってしまったという業を背負ったこともあり、理想実現のためにいっそう苛烈な政治を行ない、頼長と同様に孤立していって失脚し、死亡することになるのでしょう。
頼長の最期は、鸚鵡の使い方といい、父の忠実や信西との関係といい、史実を活かしつつたいへん面白い話になっていました。忠正もそうですが、頼長も脚本担当の藤本氏が熱意を込めて創り上げた人物になっているように思います。頼長は今回で退場となりますが、この作品では、璋子(待賢門院)・鳥羽院に匹敵するかそれ以上の印象を残した人物となりました。配役発表の時点で頼長には大いに期待していたのですが、期待値以上の出来となり、大いに満足しています。それだけに、次回以降が寂しくなるのは否めませんが。
保元の乱後の政治情勢へとつながる場面も描かれ、美福門院(得子)は乱に勝利して上機嫌な後白河帝に、治世に自分が君臨するなど思わないように、と言って挑発しますが、後白河帝は美福門院に言い返すわけではなく、闘志をかきたてられて嬉しいといった様子です。後白河帝は、勝手気ままな日々を過ごしていた即位前には誰にも必要とされておらず、主体的に政治・社会に関われなかったのにたいして、今では、国家の最高の地位にある者として、権力闘争のような「面白きこと」に熱中できることが、生を実感できるということもあり、嬉しくてたまらないということなのでしょう。頼長の最期をはじめとして、今回はたいへん面白かったのですが、裏番組がたいへん強いようなので、ついに視聴率が一桁になりそうです。これが制作に悪影響を及ぼさなければよいのですが。
おそらく疎遠な関係だったろうとはいっても、史実の清盛も叔父を斬ることには躊躇い・苦悩があったでしょうが、この作品では上記のような設定になっており、忠正の斬首を命じられた清盛の苦悩と成長をより強調しようという意図の脚本になっているのではないか、と思います。次回まで見てみないと、この創作が成功だったか否か、判断の難しいところですが、今回までは少なくとも失敗ではないように思います。清盛にとって身近な人物だった乳父の平盛康には見せ場がほとんどなかったのですが、おそらくじっさいには清盛と疎遠だったであろう忠正には、かなりの見せ場が用意されたことになります。おそらく構想の時点で、忠正を深く描くことは決まっていたでしょうから、忠正が斬首される次回は大いに注目しています。
河内源氏では、義朝の正妻である由良の命により、保元の乱で敗者となり逃亡していた為義が見つかり、都の河内源氏の館に引き取られます。為義はすっかり観念しており、息子の義朝に河内源氏の命運を託そうと考えているようです。義朝は第4回の殿上闇討事件のさいに、自分が父を守ると力強く宣言しました。その後、為義・義朝父子は対立して袂を分かちましたが、義朝が為義の斬首を命令されてどのように対応するのか、河内源氏の話は主人公側の伊勢平氏の話よりも出来のよいことが多いだけに、大いに注目しています。
天皇家では、敗者となった崇徳院が山へと逃げますが、ついに観念して都に戻り、仁和寺で出家します。生まれてからというもの、何一つ思うままにならないことを嘆く崇徳院ですが、どうも流罪になるとは考えていないようで、流罪を避けるための出家でもあったのでしょう。おそらくじっさいにも、保元の乱直後の崇徳院は、流罪を覚悟していたわけではなかったように思います。しかし信西は、天皇家嫡流で皇子もいる崇徳院に復権の恐れありとして、崇徳院の流罪を主張し、後白河帝も同意します。じっさいにも、守仁親王(後の二条帝)が即位するまでの中継ぎで、皇太子にならないまま即位するなど権威に欠ける後白河帝にとって、崇徳院が危険な存在であることは確かで、今回の描写は妥当なところだと思います。
今回私がもっとも注目していたのは頼長の最期で、頼長は書籍を拾おうとしている最中に矢に当たり、重傷を負います。学問に熱心だった頼長の個性を活かした脚本・演出だったように思います。重傷を負った頼長は、難を避けて奈良にいる父の忠実に助けを求めますが、自らも謀反人とされ、摂関家が解体されることを恐れる忠実は頼長を見捨てます。父にも見捨てられたことを悟った頼長は、舌を噛み切って自害します。断腸の思いで頼長を見捨てた忠実の元に、頼長が飼っていた鸚鵡が弱々しく地面に降りてきて、「チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ、チチウエ」と瀕死の状態で鳴きます。地面に横たわる鸚鵡を忠実が拾い上げると、すでに鸚鵡は死んでおり、忠実は愛息を見捨ててしまったことを後悔し、号泣します。おそらく、鸚鵡が頼長の一行に付いていったか、頼長一行の誰かが鸚鵡を連れていき、瀕死の頼長が父上と何度も呼ぶのを鸚鵡は聞いていたのでしょう。
焼け落ちた頼長の邸宅を訪れた信西は、頼長の日記を読み始めます。そこには息子たちへの訓戒が記されており、頼長の忠心と政治への情熱を知った信西は、感慨に浸るとともに、何か決意したような表情を見せます。かつて、当代を代表する学才の持ち主同士ということで互いに認め合った信西と頼長は敵味方に分かれ、信西は勝者となり、頼長は敗者として死亡しました。今後信西は、自らの理想とする政治を進めることになるのでしょうが、頼長の志も継承するということになるのでしょう。また信西は、頼長を死に追いやってしまったという業を背負ったこともあり、理想実現のためにいっそう苛烈な政治を行ない、頼長と同様に孤立していって失脚し、死亡することになるのでしょう。
頼長の最期は、鸚鵡の使い方といい、父の忠実や信西との関係といい、史実を活かしつつたいへん面白い話になっていました。忠正もそうですが、頼長も脚本担当の藤本氏が熱意を込めて創り上げた人物になっているように思います。頼長は今回で退場となりますが、この作品では、璋子(待賢門院)・鳥羽院に匹敵するかそれ以上の印象を残した人物となりました。配役発表の時点で頼長には大いに期待していたのですが、期待値以上の出来となり、大いに満足しています。それだけに、次回以降が寂しくなるのは否めませんが。
保元の乱後の政治情勢へとつながる場面も描かれ、美福門院(得子)は乱に勝利して上機嫌な後白河帝に、治世に自分が君臨するなど思わないように、と言って挑発しますが、後白河帝は美福門院に言い返すわけではなく、闘志をかきたてられて嬉しいといった様子です。後白河帝は、勝手気ままな日々を過ごしていた即位前には誰にも必要とされておらず、主体的に政治・社会に関われなかったのにたいして、今では、国家の最高の地位にある者として、権力闘争のような「面白きこと」に熱中できることが、生を実感できるということもあり、嬉しくてたまらないということなのでしょう。頼長の最期をはじめとして、今回はたいへん面白かったのですが、裏番組がたいへん強いようなので、ついに視聴率が一桁になりそうです。これが制作に悪影響を及ぼさなければよいのですが。
この記事へのコメント
斬首は来週にのびてしまいましたねーヤマ場引きずっても視聴率が下がってしまいそうなんですか?残念です。裏はなんでしたか?
頼長は、父上連呼していたから鸚鵡が覚えたのだと考えると気の毒ですね。
阿部サダヲ、可愛い声して残忍な選択をおしますね、
今回は、頼長の親子関係に泣けましたが、来週はさらにエグいシーンになりそうで、楽しみのような…辛いような。
これも、強調しすぎると、皆様の感性から逸れて
ますます視聴者ばなれをしそうです。
信西のドングリ眼は、一見すると邪気のないように見えるから恐ろしいというか、あのデカイ眼は睨まれている様で嫌いです。
悪左府様の死に際は、わずかに視聴率upしたようですょ、よかったです。