遠山美都男『天智と持統』

 講談社現代新書の一冊として、講談社より2010年11月に刊行されました。遠山氏の著書の多くは読みやすく面白いのですが、厳密さという点では疑問の残ることが多く、
https://sicambre.seesaa.net/article/200901article_22.html
注意して読む必要があるでしょう。本書も、こうした過去の遠山氏の著書と同じ傾向にあるのですが、もう10年以上勉強の停滞している日本古代史について、新たに得た知見もあったので、一読の価値はあったと思います。

 本書では、持統がその最晩年に父である天智とのつながりを強調して夫である天武を相対化し、それが後の『藤氏家伝』上巻『鎌足伝』に見える、法・制度(律令国家)の創始者としての「文の人」天智という人物像に結実する、という見通しが提示されています。一方、『日本書紀』における天智像は、「王朝復古」を成し遂げた「王朝中興の祖」である武断的英雄でした。これは、英雄天智が晩年に「奸臣」の台頭を許し、そのために王朝が衰亡の危機に瀕したものの、天武がその「奸臣」を討伐することにより天智の王朝を復興した、とする天武・持統の構想に従ったものでした。

 こうした二つの天智像は、持統の前半生の正当化と最晩年の課題遂行のための過程で生み出されたものだとも言える、と指摘する著者は、由来の異なる二つの天智像を無批判に重ね合わせてきた、実像からかけ離れたものになってしまっている、これまでの天智像を批判しています。それはまた、『日本書紀』を中心として描かれてきた7世紀史の再構築が必要ということでもある、と著者は指摘しています。正直なところ、著者の推定・断定をそのままに受け止めることは難しいにしても、著者が言うように、本書には7世紀史の再構築の出発点としての意義はあるように思います。

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  • 「天智と持統」 遠山 美都男

    Excerpt: 日本の古代史が好きです。特に飛鳥・奈良時代が。 特に好きなのが持統天皇。夫・天武天皇をささえ、天武亡き後は天皇として即位し活躍した女性です。 彼女の諱「鸕野讚良皇女(うののさららのひめみこ)」というの.. Weblog: 日々の書付 racked: 2012-10-16 13:44