大河ドラマ『平清盛』第25回「見果てぬ夢」
今回は平治の乱の勃発までが描かれました。信西は無能な者を次々に罷免していくなど、権勢を誇ります。第22回にて、頼長の死後に信西が頼長の日記を読み、かつては学問という絆で結ばれていた頼長の覚悟を知るという場面が描かれましたが、信西は頼長の覚悟とともに頼長を死に追いやったという業を背負って、頼長と同じく苛烈になっていき、周囲の反感を買ってしまう、という話の構造になっているのでしょう。信西と頼長は脚本家の思い入れが強いようで、そのためなのか、なかなか上手い話になっているように思います。
前回にて後白河帝が皇太子の守仁親王に譲位し、朝廷は後白河上皇の院政派と二条帝の親政派とに分かれて対立しています。後白河上皇の側近には藤原信頼や藤原成親などがおり、二条帝の側近には藤原経宗や藤原惟方(あらすじでは、平治の乱後のこの二人への拷問は描かれておらず、ともに後に許され、経宗は長期に亘って大臣を務めただけに、あるいはこの拷問は省略されるかもしれませんが、本放送ではどうなるでしょうか)などがいます。経宗を演じるのは有薗芳記氏で、典型的な公卿には合うのだろうか、とやや疑問でしたが、したたかでしぶとそうな感じに見えて、意外と適役かもしれません。
信西は後白河上皇の乳父であり、抜群の才覚の持ち主であったため、この時期の政治を主導していたのですが、今回は触れられなかったものの、息子を通じて二条帝とも通じていました。皇太子時代を経ずに即位した後白河帝は、おそらく「帝王教育」をほとんど受けておらず、そのためもあって朝廷の政治に疎いところがあったと思われ、また、守仁親王即位までの中継ぎで権威に欠けていただろうことなどから(この作品では後白河帝の中継ぎとしての性格には触れられていませんが)、信西主導の政治が可能になった、という側面もありそうです。その信西が後白河上皇に献上した長恨歌の絵巻は、信頼の最期とも関連して、平治の乱で重要な役割を果たすことになるようです。
院政派・親政派という垣根を超えての信西にたいする広範な反感が平治の乱の要因となったのですが、今回は信頼が経宗・惟方と密談をしているところが描かれ、通説から大きく逸脱した平治の乱描写にはならないようです。おそらくじっさいには、信西一門が保元の乱後その地位を高めていき、実務官人系・受領系の双方でじゅうらいの院近臣層の既得権を奪っていく形になったために、広範な反信西同盟が成立したのでしょうが、信西の政治的主導権と頼長のような苛烈なやり方にたいする反感と、信頼が近衛大将を望んで信西に阻まれたという逸話(史実なのか疑問視する見解もありますが)と、義朝が信西に冷遇されていたという逸話(こちらも、妥当な見解と言えるのか、疑問の残るところです)とで平治の乱を描くのは、時間が制約されているテレビドラマとしては有でしょうし、大成功とまではいかないにしても、少なくとも失敗ではなかったように思います。
保元の乱後、以前とは変わって小物感を漂わせるようになった義朝は、同じく信西に冷遇されたと思っている信頼から反信西の同盟に誘われ、信西を殺害するよう言われます。じっさいには、信頼と義朝はこれ以前から緊密な関係にあり、義朝は信頼に従属的な立場にあったので、信西排除のために決起した信頼に従ったのではないかと思いますが、物語の単純化のためということもあるでしょうから、義朝の後ろ盾がもういないという設定も、テレビドラマとしてはさほど問題があるとは思いません。一度は信頼の誘いを断った義朝が反信西同盟に加わる決意をしたのは、清盛の存在を強く意識したためでしたが、この作品では義朝と清盛が古くから好敵手として描かれてきたので、二人の関係の結末(どうも、武士の世を目指す好敵手同士という清盛と義朝との関係は、清盛と頼朝とに引き継がれるようですが)を描くにあたって、無理のない流れであるように思います。
今回、統子が院号宣下を受けて(上西門院)殿上始儀が行なわれ、統子に仕える頼朝は、ここで清盛とはじめて顔を合わせることになります。威厳ある清盛の姿に圧倒された頼朝は清盛の膝に酒をこぼしてしまい、最強の武士は平氏であり、頼朝のような弱気者を抱えた源氏とは違う、と宴の場で清盛に恥をかかされてしまいます。ところが、清盛は頼朝を嘲笑しているのではなく、優しい表情を見せて嬉しそうです。頼朝は父の義朝から、第3回にて描かれた義朝と清盛との競馬の話を聞き、かつて競馬で義朝に負けた清盛が立ち上がってきたことを義朝が喜んだように、宴の場で失態を演じてしまい悔しさと敵意を見せた自分が敗北から立ち上がろうとしているのを、清盛は嬉しく思ったのだろう、と理解します。義朝はかつての清盛との競馬を思い出し、今度は自分が立ち上がる番だ、と決意したようです。両者を同等の好敵手として描いてきたことには疑問もありますが、このような形で序盤の話を活かすことになったので、創作のテレビドラマとしては有だろう、と思います。
義朝の決意を促したもう一つの要因は、妻の由良御前だったように思います。前回にて由良御前が病に倒れるところが描かれ、義朝は苦悩するのですが、その様子を見ていた清盛は、宋の薬を取り寄せて義朝に渡そうとします。しかし義朝は、信西への反感と好敵手の清盛に温情をかけてもらうことへの躊躇いから、清盛の申し出を断ります。しかし、由良御前が危篤状態に陥ると、ついに義朝も清盛を頼ろうとします。それを知った由良御前は瀕死の状態で、平氏に頭を下げないでもらいたい、源氏の棟梁として誇りをもちつづけてほしい、と義朝に頼みます。自信を喪失しかけていた義朝には、正妻の遺言も奮起の契機になったのでしょう。
今回は義朝と信西が実質的な主役の感があり、その他では信頼が目立っていたので、清盛の登場時間は主人公にしてはさほど長くなかったのですが、前回に続いて、都で最大の武士勢力である伊勢平氏一門の棟梁にふさわしい振る舞いが描かれ、この作品の清盛もやっと歴史的な大人物らしくなったように思います。平治の乱を誘発したとも言える清盛の熊野詣は、信西の長年の夢である宋への渡航を祈願するためだったとされ、信西の過去が描かれて、その学識がただならぬものであることが改めて印象づけられました。
この時期の清盛は、じっさいには信西一辺倒ではなく、保元の乱の前の時と同じく、中立的立場にあったのでしょうが、この作品では清盛と信西は政治的盟友ということになっていますから、初期の頃から描かれた信西の宋への憧れとも絡めて、無理のない創作だったように思います。この件もそうですが、今回は過去の話が活かされつつ平治の乱へとつながっており、中盤の第二の山場に向けて盛り上がってきたな、と思います。次回から3回にわたって平治の乱とその結末が描かれますが、次回は信西の最期がどのように映像で表現されるのか、大いに注目しています。
前回にて後白河帝が皇太子の守仁親王に譲位し、朝廷は後白河上皇の院政派と二条帝の親政派とに分かれて対立しています。後白河上皇の側近には藤原信頼や藤原成親などがおり、二条帝の側近には藤原経宗や藤原惟方(あらすじでは、平治の乱後のこの二人への拷問は描かれておらず、ともに後に許され、経宗は長期に亘って大臣を務めただけに、あるいはこの拷問は省略されるかもしれませんが、本放送ではどうなるでしょうか)などがいます。経宗を演じるのは有薗芳記氏で、典型的な公卿には合うのだろうか、とやや疑問でしたが、したたかでしぶとそうな感じに見えて、意外と適役かもしれません。
信西は後白河上皇の乳父であり、抜群の才覚の持ち主であったため、この時期の政治を主導していたのですが、今回は触れられなかったものの、息子を通じて二条帝とも通じていました。皇太子時代を経ずに即位した後白河帝は、おそらく「帝王教育」をほとんど受けておらず、そのためもあって朝廷の政治に疎いところがあったと思われ、また、守仁親王即位までの中継ぎで権威に欠けていただろうことなどから(この作品では後白河帝の中継ぎとしての性格には触れられていませんが)、信西主導の政治が可能になった、という側面もありそうです。その信西が後白河上皇に献上した長恨歌の絵巻は、信頼の最期とも関連して、平治の乱で重要な役割を果たすことになるようです。
院政派・親政派という垣根を超えての信西にたいする広範な反感が平治の乱の要因となったのですが、今回は信頼が経宗・惟方と密談をしているところが描かれ、通説から大きく逸脱した平治の乱描写にはならないようです。おそらくじっさいには、信西一門が保元の乱後その地位を高めていき、実務官人系・受領系の双方でじゅうらいの院近臣層の既得権を奪っていく形になったために、広範な反信西同盟が成立したのでしょうが、信西の政治的主導権と頼長のような苛烈なやり方にたいする反感と、信頼が近衛大将を望んで信西に阻まれたという逸話(史実なのか疑問視する見解もありますが)と、義朝が信西に冷遇されていたという逸話(こちらも、妥当な見解と言えるのか、疑問の残るところです)とで平治の乱を描くのは、時間が制約されているテレビドラマとしては有でしょうし、大成功とまではいかないにしても、少なくとも失敗ではなかったように思います。
保元の乱後、以前とは変わって小物感を漂わせるようになった義朝は、同じく信西に冷遇されたと思っている信頼から反信西の同盟に誘われ、信西を殺害するよう言われます。じっさいには、信頼と義朝はこれ以前から緊密な関係にあり、義朝は信頼に従属的な立場にあったので、信西排除のために決起した信頼に従ったのではないかと思いますが、物語の単純化のためということもあるでしょうから、義朝の後ろ盾がもういないという設定も、テレビドラマとしてはさほど問題があるとは思いません。一度は信頼の誘いを断った義朝が反信西同盟に加わる決意をしたのは、清盛の存在を強く意識したためでしたが、この作品では義朝と清盛が古くから好敵手として描かれてきたので、二人の関係の結末(どうも、武士の世を目指す好敵手同士という清盛と義朝との関係は、清盛と頼朝とに引き継がれるようですが)を描くにあたって、無理のない流れであるように思います。
今回、統子が院号宣下を受けて(上西門院)殿上始儀が行なわれ、統子に仕える頼朝は、ここで清盛とはじめて顔を合わせることになります。威厳ある清盛の姿に圧倒された頼朝は清盛の膝に酒をこぼしてしまい、最強の武士は平氏であり、頼朝のような弱気者を抱えた源氏とは違う、と宴の場で清盛に恥をかかされてしまいます。ところが、清盛は頼朝を嘲笑しているのではなく、優しい表情を見せて嬉しそうです。頼朝は父の義朝から、第3回にて描かれた義朝と清盛との競馬の話を聞き、かつて競馬で義朝に負けた清盛が立ち上がってきたことを義朝が喜んだように、宴の場で失態を演じてしまい悔しさと敵意を見せた自分が敗北から立ち上がろうとしているのを、清盛は嬉しく思ったのだろう、と理解します。義朝はかつての清盛との競馬を思い出し、今度は自分が立ち上がる番だ、と決意したようです。両者を同等の好敵手として描いてきたことには疑問もありますが、このような形で序盤の話を活かすことになったので、創作のテレビドラマとしては有だろう、と思います。
義朝の決意を促したもう一つの要因は、妻の由良御前だったように思います。前回にて由良御前が病に倒れるところが描かれ、義朝は苦悩するのですが、その様子を見ていた清盛は、宋の薬を取り寄せて義朝に渡そうとします。しかし義朝は、信西への反感と好敵手の清盛に温情をかけてもらうことへの躊躇いから、清盛の申し出を断ります。しかし、由良御前が危篤状態に陥ると、ついに義朝も清盛を頼ろうとします。それを知った由良御前は瀕死の状態で、平氏に頭を下げないでもらいたい、源氏の棟梁として誇りをもちつづけてほしい、と義朝に頼みます。自信を喪失しかけていた義朝には、正妻の遺言も奮起の契機になったのでしょう。
今回は義朝と信西が実質的な主役の感があり、その他では信頼が目立っていたので、清盛の登場時間は主人公にしてはさほど長くなかったのですが、前回に続いて、都で最大の武士勢力である伊勢平氏一門の棟梁にふさわしい振る舞いが描かれ、この作品の清盛もやっと歴史的な大人物らしくなったように思います。平治の乱を誘発したとも言える清盛の熊野詣は、信西の長年の夢である宋への渡航を祈願するためだったとされ、信西の過去が描かれて、その学識がただならぬものであることが改めて印象づけられました。
この時期の清盛は、じっさいには信西一辺倒ではなく、保元の乱の前の時と同じく、中立的立場にあったのでしょうが、この作品では清盛と信西は政治的盟友ということになっていますから、初期の頃から描かれた信西の宋への憧れとも絡めて、無理のない創作だったように思います。この件もそうですが、今回は過去の話が活かされつつ平治の乱へとつながっており、中盤の第二の山場に向けて盛り上がってきたな、と思います。次回から3回にわたって平治の乱とその結末が描かれますが、次回は信西の最期がどのように映像で表現されるのか、大いに注目しています。
この記事へのコメント
たしかに・・義朝がだんだん情けなくなってきて、みるも無残な感じを漂わせていますね。
劉さんの→「信頼と義朝はこれ以前から緊密な関係にあり、義朝は信頼に従属的な立場にあったので・・」この部分・・もしや男色相手ではないでしょうね?(笑)
塚地なかなか名演技で、漫才師とは思えませんが・・。
・・・とうとう視聴率が今期ワーストの10.1%になってしまいましたね、悲しき限りです。
しかし来週からまたヤマ場を迎えるようなので期待したいと思います。
西行の歌をもっと知りたいと思い、図書館で『山家集』を借りてきました。
わかりやすい歌のようなきがしますが、華やかではない(笑)様な気が・・。
相変わらずの低視聴率はなんとも残念です。現場の士気が下がらなければよいのですが。