キンツェムの末裔となる二冠馬キャメロットの今後の路線

 今年のダービーは2000ギニーの勝ち馬キャメロットが圧勝し、これで4戦全勝の二冠馬となりました。近年では距離ごとの専門化が進み、2000ギニーとダービーを連勝する馬があまりいなくなりましたが、そもそも両レースともに本気で勝とうとして出走させる陣営自体、以前よりも少なくなっているのかもしれません。1989年にナシュワンが二冠馬となって以降、久しく二冠馬が誕生せず、2009年にシーザスターズが20年振りの二冠を達成しました。シーザスターズはその後、エクリプスステークス・インターナショナルステークス・アイリッシュチャンピオンステークス・凱旋門賞をすべて勝ち、ダンシングブレーヴよりも後では最高の名馬と言えるでしょう。

 キャメロットは2歳時点で高い評価を得ており、ステイヤーという見解が多かったので2000ギニーではどうかと疑問視していたのですが、わずかな着差ながら強い勝ち方で、距離が延びるダービーではさらに有利と考える人が多かったのか、圧倒的な人気となり、それに応えて圧勝しました。近年ではすっかり権威の低下した三冠最終戦のセントレジャーにダービー馬が出走してくることは皆無になりましたが、これまでの報道から、どうもキャメロットの陣営は本気で三冠を狙っているようなので、ダービー後は中距離路線を進み凱旋門賞を最後に引退したシーザスターズとは異なり、セントレジャーに出走することになりそうです。

 キャメロットはおそらくステイヤーなので、セントレジャーも勝てるでしょうから、順調にいけば、1970年のニジンスキー以来の三冠を達成する可能性は高いでしょう。セントレジャーの価値がすっかり低下したイギリスでは、もう三冠馬が誕生することはないだろう、と私は考えていたのですが、なんとも珍しいものが見られそうです。ただ、キャメロットが三冠馬になったとしても、セントレジャーの権威が復活することはないでしょう。ニジンスキーの陣営は、1970年の時点ですでに凋落傾向にあったセントレジャーに出走する意欲はあまりなかったのですが、関係者たちの熱心な誘いにより、ニジンスキーはセントレジャーに出走して無敗の三冠を達成しました。しかしその後、ニジンスキーは凱旋門賞とチャンピオンステークスで連敗し、関係者たちの思惑とは裏腹に、かえってセントレジャーの没落を決定的にしてしまいました。

 キャメロットの母系を四代さかのぼると、1974年のオークス馬ポリガミーの全妹となり、キャメロットは54戦全勝の歴史的名馬キンツェムの牝系につらなることになります。ハンガリー産のキンツェムが活躍したのは19世紀後半で、オーストリア=ハンガリー帝国の時代のことでした。人間よりも馬のほうが世代交代が早いので、競馬で19世紀後半のこととなると、かなり昔のことのように思われます。キンツェムのような近代競馬史で特筆されるべき偉大な名馬の子孫から、百数十年を経てキャメロットのように歴史的名馬の候補が誕生したのは、牝馬が一生で残せる潜在的産駒数が牡馬よりもかなり少ないことを考えると、なんとも嬉しくなります。

この記事へのコメント

YoYo
2012年06月16日 22:47
初めまして。大河ドラマの感想を検索していてこちらにたどり着きました。そして思いがけないことに名牝「キンツェム」の名を拝見して喜んでいます。
私はキンツェムのファンで(もちろん実際に見たわけではありませんが)、自身のメールアドレスの一部にながらく彼女の名を使っているほどです。
キャメロット、そうなんですか、キンツェムの末裔でしたか。彼女の血が今を生きているなんて、ワクワクするお話をありがとうございました。
2012年06月16日 23:53
はじめまして。今後ともよろしくお願い申し仕上げます。

キンツェムについては、心の琴線に触れる逸話が伝えられていますね。

今のようにマスメディアの発達した時代ならば、世界的に大人気の馬になっていたかもしれません。

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