アメリカ大陸への人類の最初の移住をめぐる議論

 『ネイチャー』の5月3日号
http://www.nature.com/nature/journal/v485/n7396/index.html
にて、現生人類(ホモ=サピエンス)の世界各地への拡散の様相についての特集が組まれていることをこのブログで取り上げましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201205article_4.html
冒頭の論説(Young Americans)では、アメリカ大陸への人類の最初の到達時期をめぐる論争が刺々しいものになっていることが指摘されています。

 この論説で解説されているように、アメリカ大陸への人類の最初の移住については、20世紀後半~近年までクローヴィス最古説が主流でした。しかし近年になって、アメリカ大陸におけるクローヴィス文化以前の人類の痕跡が相次いで報告されていることから、クローヴィス最古説を否定する研究者も増えつつあります。これは学術的な問題のはずなのですが、クローヴィス最古説を支持する研究者と否定する研究者との間の論争が刺々しいものになっており、意思伝達が不足しているのではないか、とこの論説では指摘されています。

 この論説では、他の分野で激しい論争を経験した後に、アメリカ大陸への人類の最初の到達時期をめぐる論争に参入したある研究者が、この問題での攻撃的な議論の応酬は経験したことのない水準だった、と語ったことが紹介されています。クローヴィス最古説の支持者は、先クローヴィス期と主張されている遺跡について、証拠が貧弱だと指摘していますが、この論説では、アメリカ大陸におけるクローヴィス文化以前の人類の存在という見解に、近年の諸研究は説得力のある例を提示している、と評価されており、クローヴィス最古説に否定的な立場が示されています。

 しかしこの論説では一方で、支配的な仮説を覆すような大胆な説は論理的であるべきことに注意が払われねばならず、またそうした新説が間違っている可能性もつねに考慮されなければならず、根拠となるデータと結論は注意深く検証されねばないことも指摘されています。この論説では、そうした問題がとくに懸念されるのが、データの限定される考古学であることも指摘されています。この論説では指摘されていませんが、「最初のアメリカ人」は「白人(ヨーロッパ人)」ではないか、との見解・憶測も根強く、微妙な政治的問題とも関係してくることもあり、アメリカ大陸への人類の最初の到達時期をめぐる論争は刺々しいものになりがちなのでしょう。


参考文献:
Young Americans. Nature, 485, 6.
http://dx.doi.org/10.1038/485006b

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