現生人類の拡散をめぐる議論
『ネイチャー』の5月3日号
http://www.nature.com/nature/journal/v485/n7396/index.html
にて、現生人類(ホモ=サピエンス)の世界各地への拡散の様相についての特集が組まれていることをこのブログで取り上げましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201205article_4.html
ニュース特集冒頭のP23の解説(Special issue: Peopling the planet)では、現生人類の世界各地への拡散に関する近年の研究動向について、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)など現生人類以外のホモ属の人類と現生人類との交雑についても言及されつつ、概観されています。
現生人類アフリカ単一起源説が有力になった1990年代後半から少し前までは、60000~50000年前にアフリカから出発した(出アフリカ)現生人類の一派は、東に向かってすばやくアジアを征服し、40000年前頃には北西に向かってヨーロッパへと進出し、13000年前頃にはわずかに開いた無氷回廊を通って、ユーラシア大陸のシベリアからベーリング陸橋により陸続きだったアメリカ大陸へと進出していった、という見解が有力でした。しかし現在では、一時は有力視されたこれらの見解に多くの疑問が呈されています。
この解説では、アラビア半島で100000年以上前の人類の痕跡が確認され、それが現生人類の所産だと考えられていることが紹介されています。しかし、アジアの人工物・化石証拠には曖昧なところがあることも指摘されています。ヨーロッパでは、新たな放射性炭素年代技術により、現生人類がじゅうらい考えられていたよりも数千年早くヨーロッパに到達していた可能性が指摘されています。ただ、この解説ではそれにより現生人類とネアンデルタール人との共存期間が長くなることが示唆されていますが、新たな放射性炭素年代技術により、ネアンデルタール人の絶滅時期も繰り上がる可能性が高いので、近年では、両者の共存期間はむしろじゅうらいよりも短く考えられる傾向にあるように思います。アメリカ大陸への人類の最初の移住について、この解説ではクローヴィス最古説はもはや否定された、との見解が提示されています。
この解説でもっとも重視されている近年の変化は、ネアンデルタール人やデニソワ人などのゲノム解読と、現代人のゲノムとの比較が進み、ネアンデルタール人やデニソワ人と現生人類とが交雑し、現代人にもネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子が継承されている可能性の高いことが、明らかになったことです。この解説でも述べられているように、これは確かに劇的な変化と言えるでしょう。ただ、それ以前は現生人類とネアンデルタール人との交雑の可能性に否定的な見解が有力視されていたとはいえ、遺伝学の分野でも、両者の交雑の可能性が高いことを主張した研究が少なからずあったことは、今後も強調しておくべきように思います。
参考文献:
Special issue: Peopling the planet. Nature, 485, 23.
http://dx.doi.org/10.1038/485023a
http://www.nature.com/nature/journal/v485/n7396/index.html
にて、現生人類(ホモ=サピエンス)の世界各地への拡散の様相についての特集が組まれていることをこのブログで取り上げましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201205article_4.html
ニュース特集冒頭のP23の解説(Special issue: Peopling the planet)では、現生人類の世界各地への拡散に関する近年の研究動向について、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)など現生人類以外のホモ属の人類と現生人類との交雑についても言及されつつ、概観されています。
現生人類アフリカ単一起源説が有力になった1990年代後半から少し前までは、60000~50000年前にアフリカから出発した(出アフリカ)現生人類の一派は、東に向かってすばやくアジアを征服し、40000年前頃には北西に向かってヨーロッパへと進出し、13000年前頃にはわずかに開いた無氷回廊を通って、ユーラシア大陸のシベリアからベーリング陸橋により陸続きだったアメリカ大陸へと進出していった、という見解が有力でした。しかし現在では、一時は有力視されたこれらの見解に多くの疑問が呈されています。
この解説では、アラビア半島で100000年以上前の人類の痕跡が確認され、それが現生人類の所産だと考えられていることが紹介されています。しかし、アジアの人工物・化石証拠には曖昧なところがあることも指摘されています。ヨーロッパでは、新たな放射性炭素年代技術により、現生人類がじゅうらい考えられていたよりも数千年早くヨーロッパに到達していた可能性が指摘されています。ただ、この解説ではそれにより現生人類とネアンデルタール人との共存期間が長くなることが示唆されていますが、新たな放射性炭素年代技術により、ネアンデルタール人の絶滅時期も繰り上がる可能性が高いので、近年では、両者の共存期間はむしろじゅうらいよりも短く考えられる傾向にあるように思います。アメリカ大陸への人類の最初の移住について、この解説ではクローヴィス最古説はもはや否定された、との見解が提示されています。
この解説でもっとも重視されている近年の変化は、ネアンデルタール人やデニソワ人などのゲノム解読と、現代人のゲノムとの比較が進み、ネアンデルタール人やデニソワ人と現生人類とが交雑し、現代人にもネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子が継承されている可能性の高いことが、明らかになったことです。この解説でも述べられているように、これは確かに劇的な変化と言えるでしょう。ただ、それ以前は現生人類とネアンデルタール人との交雑の可能性に否定的な見解が有力視されていたとはいえ、遺伝学の分野でも、両者の交雑の可能性が高いことを主張した研究が少なからずあったことは、今後も強調しておくべきように思います。
参考文献:
Special issue: Peopling the planet. Nature, 485, 23.
http://dx.doi.org/10.1038/485023a
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