フランス南西部における中部旧石器時代~上部旧石器時代への移行

 フランス南西部における中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行期の年代に関する研究(Talamo et al., 2012)の要約を読みました。中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行期は、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ=サピエンス)との関係を理解するうえで重要な期間となっており、関心が高く議論が活発です。この研究では、フランス南西部の“Les Cottés”遺跡の年代が詳しく調べられました。“Les Cottés”遺跡は中部旧石器時代~上部旧石器時代の層がはっきりと識別できる稀な事例なので、この問題を議論するうえで貴重な証拠となります。

 この研究では、“Les Cottés”遺跡で出土した哺乳類の骨が放射性炭素年代法で測定され、中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行期の年代が推定されました。その結果、“Les Cottés”遺跡はムステリアン(ムスティエ文化)期~初期オーリナシアン(オーリニャック文化)期まで、五つの年代に区分できることが分かりました。この時期のヨーロッパは、単純化すると中部旧石器文化のムステリアンから上部旧石器文化のオーリナシアンへと移行していくのですが、その間にプロトオーリナシアンや上部旧石器文化的なシャテルペロニアン(シャテルペロン文化)が存在し、その相互の年代関係が重要な論点になっています。

 “Les Cottés”遺跡では、ムステリアンとシャテルペロニアン(シャテルペロン文化)との間には、暦年代で1000年ほどのプロトオーリナシアンが挟まっていることが分かりました。“Les Cottés”遺跡とヨーロッパの上部旧石器時代の他遺跡との比較から、シャテルペロニアンとオーリナシアンは年代的に重なっているだろうと考えられ、プロトオーリナシアンと初期オーリナシアンの年代の比較から、この移行がヨーロッパでは急速だった、と示唆されます。また、現生人類は“Les Cottés”遺跡に暦年代で遅くとも39500年前には存在していたことも分かりました。こうした研究の蓄積により、ヨーロッパにおける中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行と、ネアンデルタール人と現生人類の関係について、より具体的な様相が解明されることになるでしょうから、今後の進展には大いに期待しています。


参考文献:
Talamo S. et al.(2012): A radiocarbon chronology for the complete Middle to Upper Palaeolithic transitional sequence of Les Cottés (France). Journal of Archaeological Science, 39, 1, 175–183.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2011.09.019

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