脊椎動物の脳の起源

 脊椎動物の脳の起源についての研究(Pani et al., 2012)が公表されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用ですが、特定の形質だけを基準とすると、系統分類とは異なる近縁関係が示されるということは、各種生物間の比較でよくあることなのだろう、と思います。とくに脳については、人間と他の動物を区別する最重要の指標と考えられる傾向にあるので、人間の側の思い入れというか思い込みが強いように思われ、人間や人間と近縁な生物の脳進化の独自性が強調されやすいのかもしれません。今後も、そうした思い込みを訂正する研究が増えていきそうです。

進化:脊椎動物の脳の進化的起源
 脊椎動物の脳は複雑な構造をしており、こうした脳がもっと単純な神経系からどのように進化したのかはよくわかっていない。脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物であるホヤやナメクジウオなどの脳は、はるかに単純な構造であるため、脊椎動物の脳は脊椎動物で独自の進化を遂げてきたと広く考えられてきた。しかし、C Loweたちの新たな研究から、ギボシムシの前端部を指定する遺伝的プログラムが、脊椎動物のものと非常によく似ていることが示された。半索動物であるギボシムシは系統分類的に脊椎動物とかなり離れており、むしろヒトデなどの棘皮動物に近縁である。この結果は、脊椎動物の脳を指定する遺伝的プログラムが、動物体前端部の発生のためにより汎用化した一連の指令群として始まったことを意味している。これに関与する諸経路はナメクジウオやホヤでは失われているか、もしくは著しく変化しているため、当初のような解釈の混乱が生じたのだろう。



参考文献:
Pani AM. et al.(2012): Ancient deuterostome origins of vertebrate brain signalling centres. Nature, 483, 289–294.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10838

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