印東道子編『人類大移動 アフリカからイースター島へ』
朝日選書の一冊として、朝日新聞出版より 2012年2月に刊行されました。本書は分担執筆の8章構成で、各論考の執筆者は、人類の移動を全地球規模で考えようという趣旨の、国立民学博物館の共同研究「人類の移動誌─進化的視点から」の構成員が中心になっています。本書は、ホモ=サピエンス(現生人類)以外の人類の出アフリカや世界各地への拡散についても触れられていますが、主要な議論は現生人類の世界各地への拡散とその様相についてであり、ホモ=ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)などユーラシア各地の先住人類と現生人類との「交替劇」についても論じられています。
とくに驚くような新情報はありませんが、形質人類学・考古学・遺伝学などの近年の研究成果が紹介されており、人類、とくに現生人類の世界各地への拡散の様相を把握するうえで、有益な一冊になっていると思います。ただ、執筆者の一人の赤澤威氏の論考に顕著なのですが、全体的に現生人類とネアンデルタール人との違いや、それと関連して上部旧石器(後期旧石器)革命を想定し、その意義を強調する見解が目立つように思われました。上部旧石器革命の強調は、発掘・研究の進んでいるヨーロッパを過大視した見解なのではないか、と私は考えているのですが、これが長い間通説的な地位を占めていたことは否定できず、批判・修正するのは容易ではないでしょう。私はこの問題への関心を強く持っているので、今後も地道に情報を収集していくつもりです。
また、現生人類の誕生が20万年前頃だという説が前提として議論が展開されていることが多いように思われましたが、現生人類の起源がどこまでさかのぼるのか、現生人類の定義とも関連して、難しい問題だと思います。本書では、この20万年前頃という数字の根拠について明示されていないように思われますが、一般的には、20万年前頃という数字の根拠の一つは、現代人にとってのミトコンドリアイヴの推定年代に近いということにあります。しかし、この数字は現代人のミトコンドリアDNAの合着年代を示しているにすぎず、現生人類の出現年代と一致していることは証明されていません。もう一つの根拠は、最古の現生人類候補化石であるオモ1号の年代が20万年前頃に近い(195000年前頃)ということなのですが、これは年代の点でやや曖昧さが残っています。現生人類の起源地がアフリカにあることはほぼ確実でしょうが、その年代となると、まだ不明なところが多分にある、というのが現状だろうと思います。
とくに驚くような新情報はありませんが、形質人類学・考古学・遺伝学などの近年の研究成果が紹介されており、人類、とくに現生人類の世界各地への拡散の様相を把握するうえで、有益な一冊になっていると思います。ただ、執筆者の一人の赤澤威氏の論考に顕著なのですが、全体的に現生人類とネアンデルタール人との違いや、それと関連して上部旧石器(後期旧石器)革命を想定し、その意義を強調する見解が目立つように思われました。上部旧石器革命の強調は、発掘・研究の進んでいるヨーロッパを過大視した見解なのではないか、と私は考えているのですが、これが長い間通説的な地位を占めていたことは否定できず、批判・修正するのは容易ではないでしょう。私はこの問題への関心を強く持っているので、今後も地道に情報を収集していくつもりです。
また、現生人類の誕生が20万年前頃だという説が前提として議論が展開されていることが多いように思われましたが、現生人類の起源がどこまでさかのぼるのか、現生人類の定義とも関連して、難しい問題だと思います。本書では、この20万年前頃という数字の根拠について明示されていないように思われますが、一般的には、20万年前頃という数字の根拠の一つは、現代人にとってのミトコンドリアイヴの推定年代に近いということにあります。しかし、この数字は現代人のミトコンドリアDNAの合着年代を示しているにすぎず、現生人類の出現年代と一致していることは証明されていません。もう一つの根拠は、最古の現生人類候補化石であるオモ1号の年代が20万年前頃に近い(195000年前頃)ということなのですが、これは年代の点でやや曖昧さが残っています。現生人類の起源地がアフリカにあることはほぼ確実でしょうが、その年代となると、まだ不明なところが多分にある、というのが現状だろうと思います。
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