フロレシエンシスはクレチン病の現生人類という説の検証

 インドネシア領フローレス島にあるリアンブア洞窟の後期~末期更新世の地層で発見された人骨群は、その独特の特徴から人類の新種ホモ=フロレシエンシスと分類され、今では学界でも広く受け入れられているように思うのですが、一部では、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)ではないか、との見解が根強く主張されています。そうした病変現生人類説のなかで、あえて「有力」と言えそうものはクレチン病説だと思うのですが、そのクレチン病説を検証した、フロレシエンシス人骨の発見チームの一員であるピーター=ブラウン博士の論文(Brown., 2012)の要約を読みました。

 クレチン病説では、フロレシエンシスのいくつかの特徴は、粘液水腫(成人期以後に発症した甲状腺機能低下症)風土性クレチン病の現生人類患者のものと一致している、と主張されています。しかしこの論文では、フロレシエンシス人骨のLB1・LB6(LB1はフロレシエンシスの正基準標本とされています)とクレチン病の現生人類患者とを、脳質量・骨格・頭蓋冠の厚さ・顔面形態・歯の発達などの観点から形態学的・統計学的に比較したところ、すべての点でフロレシエンシスとクレチン病の現生人類患者とは区別される、と主張されています。

 この論文では、クレチン病説はフロレシエンシスの骨を直接調べておらず、おそらくはフロレシエンシス人骨が地中で受けた損傷をクレチン病の証拠と混同したのだろう、と指摘されています。またこの論文では、後期~末期更新世のフローレス島にクレチン病の現生人類の存在を想定するような見解は、現時点での考古学的・地質年代学的証拠からは支持されない、と主張されています。おそらく今後も、フロレシエンシスを病変の現生人類とする説は主張され続けるでしょうが、新種説を覆すことはないだろう、と考えています。


参考文献:
Brown P.(2012): LB1 and LB6 Homo floresiensis are not modern human (Homo sapiens) cretins. Journal of Human Evolution, 62, 2, 201–224.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2011.10.011

この記事へのコメント

野のヒト
2012年03月15日 21:37
最近のニュースにあった馬鹿洞人も似たような話なのでしょうか?解説を期待しています(笑)
中国で発見の化石、未知の人類か
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120315004&expand#title
Human Remains from the Pleistocene-Holocene Transition of Southwest China Suggest a Complex Evolutionary History for East Asians
http://www.plosone.org/article/fetchObjectAttachment.action?uri=info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0031918&representation=PDF
http://www.plosone.org/article/fetchObject.action?uri=info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0031918.g003&representation=PNG_M
2012年03月15日 22:44
その研究は今日知ったばかりなのですが、ナショナルジオグラフィックでも取り上げられているとは知りませんでした。近いうちにこのブログで取り上げるつもりです。

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