大河ドラマ『平清盛』第8回「宋銭と内大臣」
今回はたいへん面白く、今後の展開への伏線も随所にはられていたこともあり、一瞬たりとも見逃すのが惜しい、と思わせる内容になっていました。ただ、残念ながら視聴率が上向くことはあまり期待できそうになく、今後は15%を超えることも少なくなってきそうです。さらに、今年は夏季オリンピックもありますから、大河ドラマ史上最低の平均視聴率になってしまう可能性が高くなってきたかもしれません。多額の予算が投じられている大河ドラマで視聴率が低迷すると、無駄遣いということで国会でのNHKの予算審議のさいに糾弾される可能性もあるわけで、NHKも大河ドラマの視聴率を気にしているのではないか、と思います。不満点も少なからずあるものの、私はこの作品をたいへん楽しんでいるので、視聴率狙いで変な方向に路線転換してもらいたくはないのですが。
視聴率の問題はさておき、今回の内容についてですが、前回に続いてさまざまな場面・人間関係に切り替わるので、構成が散漫なのではないか、という印象を抱いた人は少なくないでしょう。しかし、個々の話に面白いものが多く、見どころが多すぎるというたいへん贅沢な回でもありました。また、場面が次々と切り替わり、やや散漫に見えたとはいえ、今後はこれらの話がつながってくるのでしょうから、その意味でも、気を抜いて漫然と見ていてはもったいないな、と思います。
今回の主題は、清盛の日宋貿易への関心と、それとも大いに関係してくる、清盛と初登場の藤原頼長との関係でした。忠盛が清盛の個性を見抜いて、日宋貿易へと清盛の関心を向かわせようとしたことと、院宣を偽造してまでの日宋貿易は正道ではないとして、家盛にはそのような「不法行為」には手を染めずに棟梁になってもらいたい、と忠正が願ったこととの対比がはっきりとしており、ドラマとして分かりやすい構図になっていたと思います。何かと清盛と対照的な家盛は、恋仲にあるおそらくは身分の低い女性との結婚を諦めて、父親から持ちかけられた、しかるべき家柄の娘との結婚を決意します。表面上はさわやかに振る舞う家盛ですが、内面にはさらに鬱屈したものを抱え込んでしまったようで、今後それが表面化する時にどのように描かれるのか、今から楽しみです。
日宋貿易で宋の豊かな文物に触れ、高階通憲(信西)の発言にも触発されて、豊かで美しい宋を手本として、日本を根本から変えたいという清盛にたいして、頼長はまったく動ぜず、たかだか商いの場を見たくらいで海の向こうの宋を知った気になっているとは、と清盛を冷たく突き放し、清盛のような乱れた考え・行為を粛正していくのだ、と見下した様子で傲然と言い放ちます。清盛は自分の浅はかさ・青臭さを思い知らされて、頼長にまったく言い返せず、自分がまだ力不足であることを痛感します。調子に乗った世間知らずの清盛が、父の忠盛や今回の頼長のような壁に跳ね返されつつ成長していく、というのが物語の序盤の構図になっており、清盛はすでに従四位下なのに相変わらず汚らしい格好をさせているのは甚だ疑問ですが、主人公である清盛の成長が見られるのはよいと思います。
清盛にとっての大きな壁であることが視聴者に明示された頼長(清盛のほうが年上ですが)は今回が初登場で、配役発表の時点で大いに期待していましたが、期待値以上の演技・演出を見せてくれて、大満足です。鳥羽院・璋子(待賢門院)を超える、この作品最大の当たりキャラになるかもしれません。台詞や表情だけではなく、本の角をそろえるところなど、さりげなく頼長の細かく厳格で気難しそうなところを見せた脚本・演出・演技は見事だったと思います。当時では通憲と並ぶトップクラスの学識を感じさせる鋭い頭脳のあるところも見られましたが、それだけに、頼長には鳥羽院も含めて周囲の人物が馬鹿に見えて仕方なく、傲慢さが出てしまう、という解釈の人物造形になっているのかもしれません。その頼長も、お互いに学識を認め合った者同士ということなのか、通憲には一目置いているような感がありました。
上述したように、今回は見どころがたいへん多いのですが、やはり頼長の印象が強烈で、さすがに鳥羽院・璋子・得子(美福門院)でさえ影が薄くなってしまった感があります。それでも、やはりこの三者の関係は面白く、見応えがあります。鳥羽院は政務に差し障りがあるほどに得子を寵愛し、その得子の要望を受け入れて庭の花を水仙から菊に変えます。ところが、妊娠中の得子が春には出産となりそうだと言うと、その頃には庭では水仙が咲き乱れているだろうな、と鳥羽院は言ってしまいます。おそらく得子は、鳥羽院の心がまだ璋子にあることを感じ取ったことでしょう。
璋子は、庭の花が水仙から菊に変わったことに気づき、水仙が咲いていた頃には気にもとめなかったのに、なくなってみると水仙が懐かしく偲ばれる、とやや寂しげに言います。心が空と言われている璋子は、白河院・鳥羽院と、これまで寵愛されることに慣れており、それが当然だと思っていたのでしょう。鳥羽院の寵愛が、少なくとも表面的には完全に得子に移り、愛されることがなくなってはじめて、辛いことも含めて愛するということを理解し始めたというか、そうした感情が芽生え始めているのかもしれません。
母親の璋子のせいで鳥羽院から嫌われている崇徳帝は、佐藤義清(西行)が鳥羽院の御前で歌を詠んだことに不満で、義清を独占しようとします。短い場面でしたが、崇徳帝の孤独と不安がよく表れており、印象に残りました。坂東で厳しい道を歩んでいる義朝(義朝はそれなりに家人を従えていたはずで、それ故に坂東で調停者として振る舞うことも可能だったでしょうから、さすがに今回は誇張が行き過ぎた感がありますが)が父の為義を気遣い、それに為義が気づいている場面など、源氏方にも見どころがありました。後に頼朝の母となる由良姫は義朝に会うために為義の館を訪ねますが、由良姫は喜劇担当のようです。
清盛・明子夫妻の関係は良好のようで、明子の控えめな人柄は癖のある人物が多いこの作品のなかで貴重ですし、その美貌も見どころの一つとなっています。今回の終盤で明子の妊娠が明らかになりましたが、次回生まれてくるだろう子供が、おそらく重盛なのでしょう。次回は後の後白河院である雅仁親王がはじめて登場しますが、こちらは配役発表時より、この作品最大の地雷になるのではないか、と懸念し続けてきました。これが杞憂に終わることを願っているのですが。
視聴率の問題はさておき、今回の内容についてですが、前回に続いてさまざまな場面・人間関係に切り替わるので、構成が散漫なのではないか、という印象を抱いた人は少なくないでしょう。しかし、個々の話に面白いものが多く、見どころが多すぎるというたいへん贅沢な回でもありました。また、場面が次々と切り替わり、やや散漫に見えたとはいえ、今後はこれらの話がつながってくるのでしょうから、その意味でも、気を抜いて漫然と見ていてはもったいないな、と思います。
今回の主題は、清盛の日宋貿易への関心と、それとも大いに関係してくる、清盛と初登場の藤原頼長との関係でした。忠盛が清盛の個性を見抜いて、日宋貿易へと清盛の関心を向かわせようとしたことと、院宣を偽造してまでの日宋貿易は正道ではないとして、家盛にはそのような「不法行為」には手を染めずに棟梁になってもらいたい、と忠正が願ったこととの対比がはっきりとしており、ドラマとして分かりやすい構図になっていたと思います。何かと清盛と対照的な家盛は、恋仲にあるおそらくは身分の低い女性との結婚を諦めて、父親から持ちかけられた、しかるべき家柄の娘との結婚を決意します。表面上はさわやかに振る舞う家盛ですが、内面にはさらに鬱屈したものを抱え込んでしまったようで、今後それが表面化する時にどのように描かれるのか、今から楽しみです。
日宋貿易で宋の豊かな文物に触れ、高階通憲(信西)の発言にも触発されて、豊かで美しい宋を手本として、日本を根本から変えたいという清盛にたいして、頼長はまったく動ぜず、たかだか商いの場を見たくらいで海の向こうの宋を知った気になっているとは、と清盛を冷たく突き放し、清盛のような乱れた考え・行為を粛正していくのだ、と見下した様子で傲然と言い放ちます。清盛は自分の浅はかさ・青臭さを思い知らされて、頼長にまったく言い返せず、自分がまだ力不足であることを痛感します。調子に乗った世間知らずの清盛が、父の忠盛や今回の頼長のような壁に跳ね返されつつ成長していく、というのが物語の序盤の構図になっており、清盛はすでに従四位下なのに相変わらず汚らしい格好をさせているのは甚だ疑問ですが、主人公である清盛の成長が見られるのはよいと思います。
清盛にとっての大きな壁であることが視聴者に明示された頼長(清盛のほうが年上ですが)は今回が初登場で、配役発表の時点で大いに期待していましたが、期待値以上の演技・演出を見せてくれて、大満足です。鳥羽院・璋子(待賢門院)を超える、この作品最大の当たりキャラになるかもしれません。台詞や表情だけではなく、本の角をそろえるところなど、さりげなく頼長の細かく厳格で気難しそうなところを見せた脚本・演出・演技は見事だったと思います。当時では通憲と並ぶトップクラスの学識を感じさせる鋭い頭脳のあるところも見られましたが、それだけに、頼長には鳥羽院も含めて周囲の人物が馬鹿に見えて仕方なく、傲慢さが出てしまう、という解釈の人物造形になっているのかもしれません。その頼長も、お互いに学識を認め合った者同士ということなのか、通憲には一目置いているような感がありました。
上述したように、今回は見どころがたいへん多いのですが、やはり頼長の印象が強烈で、さすがに鳥羽院・璋子・得子(美福門院)でさえ影が薄くなってしまった感があります。それでも、やはりこの三者の関係は面白く、見応えがあります。鳥羽院は政務に差し障りがあるほどに得子を寵愛し、その得子の要望を受け入れて庭の花を水仙から菊に変えます。ところが、妊娠中の得子が春には出産となりそうだと言うと、その頃には庭では水仙が咲き乱れているだろうな、と鳥羽院は言ってしまいます。おそらく得子は、鳥羽院の心がまだ璋子にあることを感じ取ったことでしょう。
璋子は、庭の花が水仙から菊に変わったことに気づき、水仙が咲いていた頃には気にもとめなかったのに、なくなってみると水仙が懐かしく偲ばれる、とやや寂しげに言います。心が空と言われている璋子は、白河院・鳥羽院と、これまで寵愛されることに慣れており、それが当然だと思っていたのでしょう。鳥羽院の寵愛が、少なくとも表面的には完全に得子に移り、愛されることがなくなってはじめて、辛いことも含めて愛するということを理解し始めたというか、そうした感情が芽生え始めているのかもしれません。
母親の璋子のせいで鳥羽院から嫌われている崇徳帝は、佐藤義清(西行)が鳥羽院の御前で歌を詠んだことに不満で、義清を独占しようとします。短い場面でしたが、崇徳帝の孤独と不安がよく表れており、印象に残りました。坂東で厳しい道を歩んでいる義朝(義朝はそれなりに家人を従えていたはずで、それ故に坂東で調停者として振る舞うことも可能だったでしょうから、さすがに今回は誇張が行き過ぎた感がありますが)が父の為義を気遣い、それに為義が気づいている場面など、源氏方にも見どころがありました。後に頼朝の母となる由良姫は義朝に会うために為義の館を訪ねますが、由良姫は喜劇担当のようです。
清盛・明子夫妻の関係は良好のようで、明子の控えめな人柄は癖のある人物が多いこの作品のなかで貴重ですし、その美貌も見どころの一つとなっています。今回の終盤で明子の妊娠が明らかになりましたが、次回生まれてくるだろう子供が、おそらく重盛なのでしょう。次回は後の後白河院である雅仁親王がはじめて登場しますが、こちらは配役発表時より、この作品最大の地雷になるのではないか、と懸念し続けてきました。これが杞憂に終わることを願っているのですが。
この記事へのコメント
だんだん面白くなってきましたね~
第8回の視聴率は15%らしいです、依然低迷なんですが上向きにホッとしました~。
最近、女性週刊誌で壇れいがバッシングされているらしく・・
大きな声じゃ言えないが・・崖っぷち中堅女優陣の怪奇パワーが見どころにもなっているドラマだけど、なんか祟られてるんじゃと思うくらい視聴率も不調ですが、酷評でもなんでも話題になり視聴率が上がる展開なのかも(笑)
しかし・・『炎立つ』は見ておいて良かったと思えます。
毎回新たな主役が登場するのも新鮮でいいですね。
そういえば文中にある
『愛されることがなくなってはじめて、辛いことも含めて愛するということを理解し始めたというか、そうした感情が芽生え始めているのかもしれません。』
↑
ここに劉さんが目を向けるとは意外でした(笑)
璋子の『女子力』は、それを『愛』ではなく権力の失墜と未練の心理描写と考えたいのですがダメでしょうか?(笑)
で、この愛の対象は誰ですか?鳥羽院ですか?水仙摘んでたのは鳥羽ですよね、愛し始めるんですか!!?
璋子←ルール通りの女(笑)
あらすじを読んだ限りでは、璋子の最期は史実と整合的な創作になるような工夫がなされているのだな、と思いました。
私の解釈は藤本氏とは異なるのですが、この件については、璋子が亡くなる回で述べるつもりです。