大河ドラマ『平清盛』第4回「殿上の闇討ち」
今回は、壇ノ浦の戦い後の源頼朝の回想からではなく、北面武士が流鏑馬の訓練をしている場面から始まりました。この作品の演出が一昨年の大河ドラマ『龍馬伝』のそれを志向しているのだろうということは、私も含めて多くの人が感じているでしょうが、頼朝の回想から始まるという構成は、『龍馬伝』で明治時代の弥太郎の回想から始まるという構成と通じるものがあります。ただ、四部構成の『龍馬伝』で明治時代の弥太郎の回想から始まったのは各部の初回だけだったのにたいして、この作品では初回から3回連続して壇ノ浦の戦い後の源頼朝の回想から始まったので、さすがに飽きてきたのですが、今回は本編から始まったので、常に壇ノ浦の戦い後の源頼朝の回想から始まるというわけではなさそうです。今後、各回の冒頭がどのような場面から始まるのか、まだ分かりませんが、頼朝の回想から始まるのは、『龍馬伝』のように節目の回だけにしてもらいたいものです。
流鏑馬の訓練で佐藤義清(西行)が見事な腕を披露したのにたいして、清盛は無様な姿を晒してしまいます。流鏑馬の訓練の後、北面の武士は待賢門院(璋子)の警護に赴きますが、その前に化粧を始める他の北面武士たちを見て、清盛は唖然とします。待賢門院とその女房たちによる華やかな歌詠みの場で、北面武士も堀川局の詠んだ歌について意見を求められ、貴族社会の生活者らしく洗練された返答をしますが、なかでも義清は、添削までして待賢門院とその女房たちを感心させます。一方清盛は、意見を求められて見当はずれな返答をしてしまい、貴族社会に馴染めない粗野な武士であることが強調されます。じっさいには、清盛も貴族社会に順応し、かなり洗練された人物だったとは思うのですが、物語の構成上、このように分かりやすい人物造形とするのは仕方のないところでしょうか。
毎回楽しみな鳥羽院周辺の物語は今回も面白く、待賢門院は相変わらず無邪気に鳥羽院を傷つけます。さすがに堀川局が待賢門院を諌めますが、待賢門院は何が悪かったのかまったく理解できていない様子です。この作品の待賢門院は、浮世離れした人物として描かれていますが、檀れい氏にとってはまさにはまり役といった感じで、脚本・演出もさることながら、何よりも配役を賞賛すべきでしょう。あるいは、檀れい氏が演じることを前提に、人物造形がなされたのかな、とも思いますが。
待賢門院の件もあり、まだ白河院の呪縛から逃れられない鳥羽院の心の隙に取り入っていったのが忠盛で、得長寿院に千体観音を寄進し、傷ついた鳥羽院の心を慰めることに成功します。この件もあって、忠盛は内昇殿を許可され殿上人となりますが、白河院を否定しようとする鳥羽院が、白河院に重用された忠盛を信頼するようになった経緯を短時間で上手く説明できていたように思います。こうしたところは、しっかりと物語が作られているな、と安心します。殿上人となった忠盛に、清盛はわざとらしく祝いの言葉を述べますが、この時の台詞が説明口調でした。殿上人がいかなるものなのか、何とか違和感なく説明しようとする工夫が見られ、悪くはなかったように思います。
宴の場に招かれた忠盛は藤原忠実の陰険な嫌がらせにあって恥辱を受けるのですが、当時の貴族層の感情として、新興の伊勢平氏の出世は不快なものだったろう、とは思います。もっともそれは、この作品で描かれていたような武士にたいする差別というよりは、少し前までは下層貴族層というか侍身分だった一族が急速に昇進してきたことにたいする反感だったのだろう、とは思います。この作品は武士と貴族とを対照的に描くという基本構成になっているので、これでもよいのでしょうが、そうした伝統的歴史観を批判してきた髙橋昌明氏が時代考証担当の一方だけに、もっと違う世界観も提示できたのではないか、とやや残念ではあります。それにしても、忠盛への嫌がらせといい為義への煽りといい、忠実は本当に陰険な人物で、身近にこういう人がいると困りますが、ドラマとして見る分には楽しめます。
この後、有名な殿上闇討事件が描かれるのですが、この作品では、息子の父親への反発と、父親の息子への愛情という主題で貫かれていました。これは長期の物語での定番の一つというか王道ではあるものの、それだけに、脚本・演出で間違ってしまうと陳腐なものになってしまう危険もあります。しかし今回は、父親同士・息子同士を対照的に描くことにより、なかなか上手く見せていたのではないか、と思います。じっさいの為義はこの作品で描かれているほどには情けない人物ではなかったでしょうが、大物の忠盛とは対照的な分かりやすい人物造形になっており、物語としてはなかなか面白くなっています。
この作品の主題の一つであろう、王家の犬としての武士がどのようにその立場を脱して日本の支配者となっていくのか、という点についても、親子関係と絡めて大きな展開が見られました。忠盛が王家の犬の立場にすっかり安住しているのではないか、と反発する清盛ですが、忠盛は清盛を自分の子として育てることを決めた日から、王家の犬では終わらないと決意していたことを明かしました。これはさすがに結果論的解釈に偏っているかな、とも思うのですが、作品の基本的な世界観に関わることでもあり、物語としては破綻していないので、仕方のないところでしょうか。
今回もかなり面白く、今後の視聴が楽しみです。ここまで楽しみにしている大河ドラマとなると、2007年放送の『風林火山』以来ですが、さすがに第4回までの出来で比較すると、『風林火山』のほうが上かな、と思います。『風林火山』の序盤は、大河ドラマに限らず私が視聴したドラマの中ではもっとも面白かったのですが、『風林火山』は中盤以降に失速した感があり、話が進むにつれて面白くなっていった『風と雲と虹と』や『草燃える』の方を、私は総合的には高く評価しています。『平清盛』が、今後さらに面白くなることを願っていますが、案内本のあらすじを読んだ限りでは、脚本はさほど心配しなくてよさそうです。演出と演技、とくにコーンスターチを相変わらず多用している演出は不安ですが、脚本と演技がよければ、あまり気にはならないでしょう。
流鏑馬の訓練で佐藤義清(西行)が見事な腕を披露したのにたいして、清盛は無様な姿を晒してしまいます。流鏑馬の訓練の後、北面の武士は待賢門院(璋子)の警護に赴きますが、その前に化粧を始める他の北面武士たちを見て、清盛は唖然とします。待賢門院とその女房たちによる華やかな歌詠みの場で、北面武士も堀川局の詠んだ歌について意見を求められ、貴族社会の生活者らしく洗練された返答をしますが、なかでも義清は、添削までして待賢門院とその女房たちを感心させます。一方清盛は、意見を求められて見当はずれな返答をしてしまい、貴族社会に馴染めない粗野な武士であることが強調されます。じっさいには、清盛も貴族社会に順応し、かなり洗練された人物だったとは思うのですが、物語の構成上、このように分かりやすい人物造形とするのは仕方のないところでしょうか。
毎回楽しみな鳥羽院周辺の物語は今回も面白く、待賢門院は相変わらず無邪気に鳥羽院を傷つけます。さすがに堀川局が待賢門院を諌めますが、待賢門院は何が悪かったのかまったく理解できていない様子です。この作品の待賢門院は、浮世離れした人物として描かれていますが、檀れい氏にとってはまさにはまり役といった感じで、脚本・演出もさることながら、何よりも配役を賞賛すべきでしょう。あるいは、檀れい氏が演じることを前提に、人物造形がなされたのかな、とも思いますが。
待賢門院の件もあり、まだ白河院の呪縛から逃れられない鳥羽院の心の隙に取り入っていったのが忠盛で、得長寿院に千体観音を寄進し、傷ついた鳥羽院の心を慰めることに成功します。この件もあって、忠盛は内昇殿を許可され殿上人となりますが、白河院を否定しようとする鳥羽院が、白河院に重用された忠盛を信頼するようになった経緯を短時間で上手く説明できていたように思います。こうしたところは、しっかりと物語が作られているな、と安心します。殿上人となった忠盛に、清盛はわざとらしく祝いの言葉を述べますが、この時の台詞が説明口調でした。殿上人がいかなるものなのか、何とか違和感なく説明しようとする工夫が見られ、悪くはなかったように思います。
宴の場に招かれた忠盛は藤原忠実の陰険な嫌がらせにあって恥辱を受けるのですが、当時の貴族層の感情として、新興の伊勢平氏の出世は不快なものだったろう、とは思います。もっともそれは、この作品で描かれていたような武士にたいする差別というよりは、少し前までは下層貴族層というか侍身分だった一族が急速に昇進してきたことにたいする反感だったのだろう、とは思います。この作品は武士と貴族とを対照的に描くという基本構成になっているので、これでもよいのでしょうが、そうした伝統的歴史観を批判してきた髙橋昌明氏が時代考証担当の一方だけに、もっと違う世界観も提示できたのではないか、とやや残念ではあります。それにしても、忠盛への嫌がらせといい為義への煽りといい、忠実は本当に陰険な人物で、身近にこういう人がいると困りますが、ドラマとして見る分には楽しめます。
この後、有名な殿上闇討事件が描かれるのですが、この作品では、息子の父親への反発と、父親の息子への愛情という主題で貫かれていました。これは長期の物語での定番の一つというか王道ではあるものの、それだけに、脚本・演出で間違ってしまうと陳腐なものになってしまう危険もあります。しかし今回は、父親同士・息子同士を対照的に描くことにより、なかなか上手く見せていたのではないか、と思います。じっさいの為義はこの作品で描かれているほどには情けない人物ではなかったでしょうが、大物の忠盛とは対照的な分かりやすい人物造形になっており、物語としてはなかなか面白くなっています。
この作品の主題の一つであろう、王家の犬としての武士がどのようにその立場を脱して日本の支配者となっていくのか、という点についても、親子関係と絡めて大きな展開が見られました。忠盛が王家の犬の立場にすっかり安住しているのではないか、と反発する清盛ですが、忠盛は清盛を自分の子として育てることを決めた日から、王家の犬では終わらないと決意していたことを明かしました。これはさすがに結果論的解釈に偏っているかな、とも思うのですが、作品の基本的な世界観に関わることでもあり、物語としては破綻していないので、仕方のないところでしょうか。
今回もかなり面白く、今後の視聴が楽しみです。ここまで楽しみにしている大河ドラマとなると、2007年放送の『風林火山』以来ですが、さすがに第4回までの出来で比較すると、『風林火山』のほうが上かな、と思います。『風林火山』の序盤は、大河ドラマに限らず私が視聴したドラマの中ではもっとも面白かったのですが、『風林火山』は中盤以降に失速した感があり、話が進むにつれて面白くなっていった『風と雲と虹と』や『草燃える』の方を、私は総合的には高く評価しています。『平清盛』が、今後さらに面白くなることを願っていますが、案内本のあらすじを読んだ限りでは、脚本はさほど心配しなくてよさそうです。演出と演技、とくにコーンスターチを相変わらず多用している演出は不安ですが、脚本と演技がよければ、あまり気にはならないでしょう。
この記事へのコメント
今回の視聴率は関西地区で15%台だったようで、だいぶ下がってきましたね~しかし面白いという意見もかなり見かけます、男性はサラリーマン社会の構造に近い?のか感情移入できるシーンがおおいのではないでしょうか。
壇れい・・・無邪気な表情が魅力的で嫌いです、『金麦』飲みながら多摩湖やってほしいです(笑)まあ、さすが宝塚の姫だけのことはあります。
三上博は額の青筋が気になって・・血管キレそうで怖い(笑)。
しかし、今回は演技派ぞろいでいいですねー、嬉しいです。
確かに前期『風林火山』と同様の勢いを感じます。
それと・・オープニングの曲が余りにも記憶に残り過ぎて・・刷り込まれてく感が恐ろしい・・まるでわらべ歌のように口ずさんでしまい、昨晩は多分この曲と貴一の恥辱シーンで刺激を受けて悪夢を見ました。
まるで現代の役人のパワハラそのもののような・・・。
今回の「汚」と「雅」はバランスが丁度いい感じでしたね、西行もなかなかはまり役です。・・・玉木さんはー成り行き次第でどうも安心できません(好きなんですけどね 笑)
今夜は久々にゆったりした気分で自由な夜を楽しんでおります。
昨日は就職試験に行き、多分合格はしないでしょうが、受験そのものは有益でした、先ずは節目が過ぎてリラックスしてます。
今回劉さんが書いたこの部分
『忠盛は清盛を自分の子として育てることを決めた日から、王家の犬では終わらないと決意していたことを明かしました。これはさすがに結果論的解釈に偏っているかな、とも思うのですが…』
この部分、私は若干解釈が違います。
武士の世を創る野心がありながら落胤を育てるのは、最初から清盛の存在を武器として考えているからではないでしょうか。
父親としてより、父親の立場を利用して武家社会をつくる野心があった事を、武士として育てるた本当の理由を同じ武士の大人の男として吐露したのだと思えるのです。
おまえを育てた時から、育てた今まで俺はチャンスが来るのを待っていた。
と、でも言いましょうか。
彼は平氏が成り上がるための最終兵器?
あの場面は親子関係に違いはないのですが、重点は親子愛より武家社会の世を我が一門でという忠盛の野心の決意を、武士の自覚が少し目覚めた息子に教えたのだと思うのですよ。と、私は感じました。
うまく表現出来ないのですが親子愛と親子の対比が演出で、結果論の方が忠盛の本心で核心的主題かな?と感じました。
朝廷での地位を急速に上昇させていたとはいえ、漠然としたものであったにしても、後の武家政権の如きものを当時の武士が目指していたと解釈できるような発言はさすがにどうかな、と疑問に思った次第です。
そうですね、当時の武士が武家政権をめざしていたかどうかは確かにわかりませんね、それは現代人の解釈ですね。私はちょっと陥りましたか?(笑)
ご落胤を育てて「ちょっとはましな生活ができるかも?」くらいは考えていたでしょうか?昔の人でもこの程度の打算はありそうですよね~。
ちょっとセリフが強烈すぎたんですね、今回が中井貴一の見せ場ってことですか、この後出演が減るんでしょうね。
ところで西行のように、あのような場で意見を求められることってあったのでしょうか?
あれもやりすぎではないですか?
松ケンの「おもらし」発言はかわいかったですけど←これは喜劇として認
SAKAKIさん、はじめまして。今後ともよろしくお願い申し仕上げます。
『風林火山』は久しぶりに夢中になって視聴しつづけた大河ドラマでした。『平清盛』には、今後さらに盛り上がってもらいたいものです。