通俗的歴史観

 このブログにて今年の大河ドラマ『平清盛』について言及した記事にて、たびたび「通俗的歴史観」という表現を用いているのですが、具体的に念頭にあるのは、小学校6年生~中学生の頃によく読んでいた、『図説学習 日本の歴史』(旺文社)の記述です。『図説学習 日本の歴史』は全8巻で、第1巻~第5巻が通史(第1巻が原始~大和時代、第2巻が奈良~平安時代、第3巻が鎌倉~室町時代、第4巻が安土桃山~江戸時代、第5巻が明治時代以降)、第6巻と第7巻が人物伝(第6巻が安土桃山時代まで、第7巻が江戸時代以降)、第8巻が文化史・年表・総索引という構成になっています。

 この『図説学習 日本の歴史』全8巻は、元々教育熱心な叔父・叔母が子供(私にとっては1歳上の従兄弟)の歴史教育のために購入したのですが、従兄弟は歴史にはあまり興味を持たず、全8巻を購入後しばらくして仕事の都合で引っ越すことになり、私が1981年放送の大河ドラマ『おんな太閤記』を見てから歴史に興味を持ったということもあって、自転車で往来できるくらいの距離にあった私の実家が譲り受けることになり、その後私が独り暮らしを始めたさいに実家から持ってきて、現在も自室に置いている、という経緯があります。

 私の歴史知識・認識は、その基礎のほとんどがこの『図説学習 日本の歴史』全8巻により形成されたと言ってよく、義務教育での社会科の授業よりもはるかに多くの影響を受けました。それは、『図説学習 日本の歴史』全8巻は1巻平均300ページ以上の分量があり、小学校高学年~中学生向けにしては詳しい内容ながら、豊富な図版と総振り仮名により読みやすい工夫がなされていたからで、学習書としてはかなり優れており、今読んでもなかなか面白いと思います。ただ、現在では残念ながら改訂版が刊行されていないようで、そのこととも関連して、刊行がかなり古い(初版は1970年代の刊行)こともあり、今となっては否定された見解が少なからず採用されています。

 こうした学習書には今でもかなりの需要があるように思うのですが、少子高齢化の時代だけに、残念ながら刊行は難しいのでしょうか。前置きが長くなり過ぎたというか、この記事はかなりのところ前置きだけになってしまうのですが、本題についてです。本書は刊行が古いだけに、提示されている見解が今となっては否定されていることも少なくないのですが、それだけに、現在でも根強い通俗的見解が見られるというところもあり、その意味でもなかなか興味深いところがあります。今年の大河ドラマ『平清盛』に関連する通俗的見解と言える記述としては、以下に引用する第2巻(初版の刊行は1977年、私が所有している重版の刊行は1983年)P261~262の、保元の乱後の政治情勢についての一節があります。

 武士では、一族を自分の手で殺してしまった源義朝が、その後はあまり出世もできず、孤独な日を送っていた。
 それに引きかえ、平清盛は保元の乱では大きな働きもなかったのに、信西と結んで勢力をのばし、播磨(兵庫県)の国守になったりしていた。官位も四位で、義朝の五位より高く、義朝を引き離していた。
 しぜん義朝は信西・清盛と対立するようになり、信頼に近づいていった。


 現在では、保元の乱の前の時点で義朝と清盛との間の官位にかなりの開きがあり(清盛の正四位下にたいして、義朝は従五位下)、保元の乱後に従五位上から正五位下へと昇進した義朝が、清盛と比較して冷遇されたという説は否定されています。清盛は保元の乱後に播磨守や大宰大弐を歴任していますが、位階は正四位下のままで、正三位に昇進して公卿になったのは平治の乱後のことです。清盛が正四位下に昇進したのは保元の乱の10年前のことですが、その後昇進がなかったのは、正四位下昇進後の祇園闘乱事件の影響とも考えられますし、当時の伊勢平氏のような下級貴族にとって、上級貴族とも言うべき公卿に昇進するさいの壁はたいへん高かった、とも言えるでしょう。

 また、一時は有力な皇位継承候補だった重仁親王(崇徳上皇の長男)の乳母が池禅尼だったことから、保元の乱では伊勢平氏の主力が崇徳上皇方につく可能性もあったわけで、戦場での直接の働きは清盛よりも義朝のほうが上としても、伊勢平氏の主力が後白河天皇方について保元の乱の帰趨を決定づけたことは、清盛の大きな功績と言えるでしょう。今年の大河ドラマ『平清盛』では、保元の乱~平治の乱にかけての政治史がどう描かれるのか、たいへん楽しみです。

この記事へのコメント

Gくん
2012年01月30日 18:09
こんばんは!
管理人さんの歴史関連の記事は、ほとんど読んでいます。
記事最後のところ、保元の乱・平治の乱までをどう描くか、私も期待しています。管理人さんの大河ドラマ関連は、去年からほとんど読んでいますが、管理人さんの期待は裏切られ、懸念の方は当たっているように感じられます。
2012年01月30日 21:32
歴史ドラマとしてはどうかと思うところが少なくないのですが、物語自体は楽しみにしています。

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