現代の採集狩猟民から推定される人間のネットワークの特徴の起源
『ネイチャー』の今週号の表紙には、タンザニア北部のハツァ族の女性がngwilabeeという果実を摘んでいる様子の写真が掲載されています。これは、『ネイチャー』の今週号に掲載されている狩猟採集民の社会的ネットワークと協力についての研究(Apicella et al., 2012)に関連したものです。ハツァ族は現代の「先進社会」からほぼ完全に切り離された集団で、人類学で初期的な狩猟採集民の社会を調べるさいの有用なモデルになっている、とのことです。
この研究では、個人間の結束や協力の傾向を定量した、ハツァ族の社会的ネットワークが調べられ、推移性や同族親和性など、現代社会のネットワークに見られる主な特徴がハツァ族で認められることが明らかにされました。さらに、社会的な結束は公共財ゲームで同レベルの贈与をする個人間のほうが強く、ハツァ族の集団では、協力の程度の差異はグループ間で大きく、グループ内では小さかった、とのことです。こうした結果から、人間のネットワークの重要な特徴は共通の起源を持ち、人類史の早い時点で生じた可能性があるのではない、と示唆されています。
確かに、更新世の人類社会を推定するにあたって、現代の都市部の社会よりも、採集狩猟民の社会のほうが参考になるだろうとは思いますが、NHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか 第1集 旅はアフリカからはじまった』についての雑感でも述べたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/201201article_24.html
現代の採集狩猟民は、更新世には存在しなかった広範な農耕と近代社会という条件下で生活しているということと、現代の採集狩猟民も現代の農耕民・都市民と同じ時間を過ごしており、程度の違いはあるかもしれないにしても、長期にわたる社会的変容を経験してきた、ということは大いに強調すべきだろう、とは思います。
じっさい、「原始的な生活」を長期にわたって維持してきた、と考えられる傾向にあるアマゾン川流域の先住民については、過去に大規模な社会を構築した経験のあることがじゅうぶん想定され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200801article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201006article_22.html
アマゾン川流域の先住民の現代の社会構造が、更新世の人類のそれとは大きく異なる可能性は低くないだろう、と私は考えています。
もっとも、私は不勉強なので、ハツァ族がどのような経緯で成立したのか、まったくといってよいほど知りませんが、ハツァ族の社会と更新世の人類社会とを安易に結びつけてはならないだろう、とは思います。人間のネットワークの重要な特徴は共通の起源を持ち、人類史の早い時点で生じた可能性がある、と私も考えていますが、それは、「現代の先進社会からほぼ完全に切り離された集団」にも見られるからということではなく、ハツァ族も含めて世界の広範な社会集団で確認されて言えることだろう、と思います。
参考文献:
Apicella CL. et al.(2012): Social networks and cooperation in hunter-gatherers. Nature, 481, 497–501.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10736
この研究では、個人間の結束や協力の傾向を定量した、ハツァ族の社会的ネットワークが調べられ、推移性や同族親和性など、現代社会のネットワークに見られる主な特徴がハツァ族で認められることが明らかにされました。さらに、社会的な結束は公共財ゲームで同レベルの贈与をする個人間のほうが強く、ハツァ族の集団では、協力の程度の差異はグループ間で大きく、グループ内では小さかった、とのことです。こうした結果から、人間のネットワークの重要な特徴は共通の起源を持ち、人類史の早い時点で生じた可能性があるのではない、と示唆されています。
確かに、更新世の人類社会を推定するにあたって、現代の都市部の社会よりも、採集狩猟民の社会のほうが参考になるだろうとは思いますが、NHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか 第1集 旅はアフリカからはじまった』についての雑感でも述べたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/201201article_24.html
現代の採集狩猟民は、更新世には存在しなかった広範な農耕と近代社会という条件下で生活しているということと、現代の採集狩猟民も現代の農耕民・都市民と同じ時間を過ごしており、程度の違いはあるかもしれないにしても、長期にわたる社会的変容を経験してきた、ということは大いに強調すべきだろう、とは思います。
じっさい、「原始的な生活」を長期にわたって維持してきた、と考えられる傾向にあるアマゾン川流域の先住民については、過去に大規模な社会を構築した経験のあることがじゅうぶん想定され、
https://sicambre.seesaa.net/article/200801article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201006article_22.html
アマゾン川流域の先住民の現代の社会構造が、更新世の人類のそれとは大きく異なる可能性は低くないだろう、と私は考えています。
もっとも、私は不勉強なので、ハツァ族がどのような経緯で成立したのか、まったくといってよいほど知りませんが、ハツァ族の社会と更新世の人類社会とを安易に結びつけてはならないだろう、とは思います。人間のネットワークの重要な特徴は共通の起源を持ち、人類史の早い時点で生じた可能性がある、と私も考えていますが、それは、「現代の先進社会からほぼ完全に切り離された集団」にも見られるからということではなく、ハツァ族も含めて世界の広範な社会集団で確認されて言えることだろう、と思います。
参考文献:
Apicella CL. et al.(2012): Social networks and cooperation in hunter-gatherers. Nature, 481, 497–501.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10736
この記事へのコメント