杣田善雄『日本近世の歴史2 将軍権力の確立』

 『日本近世の歴史』全6巻の第2巻として、2011年12月に吉川弘文館より刊行されました。本書の叙述範囲は、江戸幕府の将軍でいうと第三代の家光と第四代の家綱の時代を対象としていますが、家光の代とはいっても、第二代将軍秀忠没後がおもに叙述範囲となっており、家光が「天下人」となって以降ということになります。表題にあるように、この時代は将軍権力が確立していった時期なのですが、本書を読むと、むしろ将軍個人の資質に大きく左右されない安定した江戸幕府の統治体制の確立、との表現のほうが適しており、本書も基本的にはそうした論調で叙述が進められているように思います。それはまた、家光・家綱ともに病弱であったこととも関係があると言えそうです。

 まだ戦国時代の遺風が多分に残っていた家光の代の初期から、島原の乱と寛永の大飢饉を経て、江戸幕府の統治機構が確立していき、国内の政治情勢も安定していきます。しかし、家光から家綱への代替わりのさいにもなお、支配層には代替わりに伴う不安定化・騒乱の勃発がかなりの程度懸念されており、これには、秀忠・家光の将軍就任のさいには前代の将軍が健在だったのにたいして、家綱は前代の将軍の死により若くして「天下人」の地位を継承した、という事情があるのかもしれません。

 おそらくは現代日本人の多くが江戸幕府の政治制度として認識しているであろう枠組みの多くが、家光・家綱の時代に確立しており、現代日本社会では前後の時代と比較して人気の低い地味な時代かもしれませんが、近世の枠組みが定まった重要な時代だと思います。本書は、そうした政治・社会制度の確立期を、決められた分量のなかで過不足なく叙述しているなかなかの良書ではないか、と私は評価しています。この『日本の近世』全6巻の趣旨は、高校生・高校教科書をも強く意識した、あくまでも一般読者を対象とする分かりやすい政治史とのことですが、本書はかなりのていどそれを実現できているように思います。

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