イベリア半島の後期中部旧石器時代の様相

 イベリア半島の後期中部旧石器時代の年代についての研究(Maroto et al., 2011)の要約を読みました。イベリア半島は、中部旧石器時代~上部旧石器時代への移行と、ネアンデルタール人の絶滅に関する議論において重要な地域とされています。この時期のイベリア半島の特徴として、北部では上部旧石器文化が36500年前頃に現われたのにたいして、南部では32000~30000年前かそれ以降まで中部旧石器文化が続いたことが指摘されています(この研究での年代は放射性単年代測定法によるもので、非較正のようです)。

 こうした北部と南部の対照性を前提としてエブロ川境界仮説が提示されていますが、イベリア半島の南北において、上記の年代パターンに合致しないデータも提示されており、さらにエブロ川境界仮説の前提となる年代データのいくつかに疑問が呈されています。じゅうらい、イベリア半島北部では、いくつかの遺跡の終末期中部旧石器文化の年代が、最初の上部旧石器文化よりも新しく、イベリア半島南部の最後のネアンデルタール人の痕跡と年代が類似している、と指摘されています。

 この研究では、イベリア半島北部のカンタブリア州および地中海地域の遺跡について、前処理方法を適用した新たな放射性炭素年代測定結果が提示されました。その結果、イベリア半島北部における後期中部旧石器文化の存在は支持されませんでした。この研究も、ヨーロッパにおける旧石器時代の年代の見直しという、近年の動向に位置づけられると言えるでしょう。このように個別の事例を積み重ねていくことで、ヨーロッパにおける中部旧石器時代~上部旧石器時代への移行と、ネアンデルタール人絶滅の様相について、より精度の高い見解を提示できるようになるでしょう。


参考文献:
Maroto J. et al.(2012): Current issues in late Middle Palaeolithic chronology: New assessments from Northern Iberia. Quaternary International, 247, 15–25.
http://dx.doi.org/10.1016/j.quaint.2011.07.007

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