現代東アジア人にデニソワ人の遺伝的痕跡?

 現代東アジア人にデニソワ人の遺伝的痕跡が認められることを指摘した研究(Skoglund, and Jakobsson., 2011)が報道されました。この研究は、オンライン版での先行公開となります。昨年その存在が公表されたデニソワ人は、シベリアで発見された、遺伝系統樹では現生人類(ホモ=サピエンス)ともネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)とも異なる系統の人類です(関連記事)。同じく昨年、現代人のなかではメラネシア人にデニソワ人(が分類されるべき人類種もしくは亜種)との交雑の痕跡が認められる、との研究が公表されました(関連記事)。今年になって、デニソワ人との交雑の痕跡の認められる現代人の地理的範囲は、オセアニアを中心としてさらに広がる可能性が指摘されました(関連記事)。

 この研究では、現代人1568人の一塩基多型のデータが用いられて、現代人とネアンデルタール人・デニソワ人のDNAが比較され、東アジアのなかでもとくに南部の現代人に、わずかながらデニソワ人の遺伝的痕跡が認められる、と主張されています。現代人のなかでは、ユーラシア東部やオセアニアにしかデニソワ人の遺伝的痕跡が見られないことから、ヨーロッパ人とアジア人やオセアニア人が分岐した後に、アジア人やオセアニア人の祖先とデニソワ人は交雑したのではないか、とこの研究では指摘されています。また、アメリカ先住民にもデニソワ人の遺伝的痕跡が見られないことから、アメリカ先住民の祖先が東アジア人の祖先と分岐した後に、東アジア人の祖先はデニソワ人と交雑したのではないか、とも指摘されています。このことから、デニソワ人と現生人類との交雑が2地域で起きた可能性も指摘されています。

 しかし、今年になって、デニソワ人との交雑の痕跡の認められる現代人の地理的範囲は、オセアニアを中心としてさらに広がる可能性が高い、との見解を主張している(関連記事)研究者の一人であるヨハネス=クラウス氏は、この研究について、交雑の痕跡はごくわずかであり、確かな証拠とは言えないし、自分たちの研究ではアジア大陸部の現代人にデニソワ人の遺伝的痕跡は認められなかった、と否定的です。この問題の解決には、DNA解析の範囲をさらに広げ、現代人とデニソワ人のDNA の抽出・解析の数を増やしていくことが必要になるでしょう。


参考文献:
Skoglund P, and Jakobsson M.(2011): Archaic human ancestry in East Asia. PNAS, 108, 45, 18301-18306.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1108181108

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