フロレシエンシス人骨の詳細な分析

 フロレシエンシスの頭蓋についての研究(Kaifu et al., 2011)の要約を読みました。2003年にインドネシア領フローレス島にあるリアンブア洞窟の更新世末期の地層から発見された人骨群については、人類の新種ホモ=フロレシエンシスとする見解が優勢のようですが、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)とする見解も根強く主張され続けています。新種説の立場のこの研究では、新種フロレシエンシスと認める場合に、正基準標本とされるLB1の頭蓋顔面の形態的特徴について詳しく分析され、初期ホモ属など他の人類と比較されています。また、この研究には日本の海部陽介氏や馬場悠男氏が関わっており、海部氏は筆頭著者となっています。

 LB1人骨の特徴の一つが著しく縮小した顔面なのですが、この点では現生人類も同様です。ただ、LB1は現生人類よりも全体的な頭蓋サイズがずっと小さくなっており、頭が低く額が狭くなっているなど、原始的な特徴も示しています。一方でLB1の頭蓋骨には、ハビリスよりも後のホモ属に見られる多くの派生的特徴も認められ、原始的特徴と派生的特徴が混在しています。こうした複雑な形態学的特徴を示すLB1の頭蓋骨にもっともよく似ている既知の人骨は、ジャワ島のサンギランとトリニールで出土した初期ホモ=エレクトスだ、とこの研究では指摘されています。

 こうした分析からこの研究では、フロレシエンシスはジャワのエレクトスから進化し、劇的な島嶼化を経験したのではないか、と主張されていますが、フロレシエンシスの進化史を理解するには、さらなる発見とその詳細な分析が必要だ、とも指摘されています。最近のフロレシエンシスに関する研究では、フロレシエンシスの祖先として、エレクトスよりもさらに原始的な特徴を有する人類を想定する見解のほうが多いように思われるのですが、この研究では、詳細な分析の結果、ジャワのエレクトスからの進化が主張されています。ただ、フロレシエンシスの祖先がどのような人類種であれ、フロレシエンシスがかなりのていど島嶼化を経験した可能性は高いように思います。


参考文献:
Kaifu Y. et al.(2011): Craniofacial morphology of Homo floresiensis: Description, taxonomic affinities, and evolutionary implication. Journal of Human Evolution, 61, 6, 644-682.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2011.08.008

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