「文化強国」を目指す中国の今後
先日、このブログで、中華人民共和国が「文化強国」を目指す方針を明らかにしたことを記事にしましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201110article_20.html
以下の記事は、その補足です。
上記の記事では明記することを忘れてしまったのですが、中国が「文化強国」を目指すのは、侵略的な帝国主義・覇権主義路線を強化するにあたって、経済・軍事力だけでは不充分で、広い意味での文化力も必要であり、経済・軍事力と比較して、現状ではそこがたいへん弱い、との自己認識を中国政府の支配層が抱いているためなのでしょう。かつてのイギリスも、20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国も、冷戦期のソ連もそうですが、帝国(もしくは帝国志向の大国)は魅力的な(広い意味での)文化を世界に提示してきました。もちろん、そうした魅力的な文化が、本当に多数の人々にとっての幸福になったのかというと、必ずしもそうとは言えませんが(とくにソ連については)。
かつてのイギリスにも、20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国にも、冷戦期のソ連にも共通する「魅力的な文化」は、「近代文化」と言うこともできるでしょうが、もちろん、提示される「近代文化」の在り様は、時代・国により異なるでしょう。かつてのイギリスの場合は、近代国民国家の枠組みそのものや、産業革命により達成された安価で一定以上の水準の大量に生産された商品や、自然科学をはじめとして優れた学術などが、他の諸国にとって「魅力的な文化」となりました。
冷戦期のソ連は、なんといっても社会主義イデオロギーが世界の多くの人を魅了しました。ソ連の内実が宣伝とは大きく違っていたことについては、冷戦終結後20年以上経過した今となっては、改めて述べる必要はないでしょうが、ソ連の提示したイデオロギーが、冷戦期に世界の多くの人を魅了したことは否定できません。20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国は、自由・民主というイデオロギーと、自動車・家電製品などのある豊かな生活文化と、映画などの大衆娯楽が、世界の多くの人々を魅了してきました。また、米国は学術面でも長く世界の中心であり続け、今でも世界中から優秀な人材が米国に集まっています。
これらの帝国と比較すると、現在の中国に魅力的な文化が決定的に不足していることは否定できません。上記の記事でも述べましたが、「西洋の衝撃」により中華文化・価値観が没落して以降では、第三世界の代表として「高邁な理想」を掲げていた毛沢東政権期のほうが、中国が文化面で世界に与える影響力はずっと大きかったのではないか、と思います。中国の興隆は、「伝統中華の復興」というよりは、欧米を規範としての「近代国家の発展」としての側面のほうが圧倒的に強いでしょうから、おそらく、中国が世界に提示できる「魅力的な文化」は、「伝統的中華文化」ではないでしょう。
中国が世界に提示できる最初の魅力的な文化の有力候補は、経済力と比例して発展させやすく、中国の「核心的利益」と抵触する可能性の低い自然科学だと思いますが、自然科学についても、人文・社会科学ほどではないにしても、中国の権威主義的・抑圧的体制により、優秀な人材が集まりにくくなるところはあるでしょうから、中国が自然科学の分野で世界の中心になれるかというと、楽観視はできないように思います。もちろんそれでも、経済力というか経済規模の大きさは、自然科学の発展にたいへん有利とは言えるでしょうが。
https://sicambre.seesaa.net/article/201110article_20.html
以下の記事は、その補足です。
上記の記事では明記することを忘れてしまったのですが、中国が「文化強国」を目指すのは、侵略的な帝国主義・覇権主義路線を強化するにあたって、経済・軍事力だけでは不充分で、広い意味での文化力も必要であり、経済・軍事力と比較して、現状ではそこがたいへん弱い、との自己認識を中国政府の支配層が抱いているためなのでしょう。かつてのイギリスも、20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国も、冷戦期のソ連もそうですが、帝国(もしくは帝国志向の大国)は魅力的な(広い意味での)文化を世界に提示してきました。もちろん、そうした魅力的な文化が、本当に多数の人々にとっての幸福になったのかというと、必ずしもそうとは言えませんが(とくにソ連については)。
かつてのイギリスにも、20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国にも、冷戦期のソ連にも共通する「魅力的な文化」は、「近代文化」と言うこともできるでしょうが、もちろん、提示される「近代文化」の在り様は、時代・国により異なるでしょう。かつてのイギリスの場合は、近代国民国家の枠組みそのものや、産業革命により達成された安価で一定以上の水準の大量に生産された商品や、自然科学をはじめとして優れた学術などが、他の諸国にとって「魅力的な文化」となりました。
冷戦期のソ連は、なんといっても社会主義イデオロギーが世界の多くの人を魅了しました。ソ連の内実が宣伝とは大きく違っていたことについては、冷戦終結後20年以上経過した今となっては、改めて述べる必要はないでしょうが、ソ連の提示したイデオロギーが、冷戦期に世界の多くの人を魅了したことは否定できません。20世紀半ば~現在のアメリカ合衆国は、自由・民主というイデオロギーと、自動車・家電製品などのある豊かな生活文化と、映画などの大衆娯楽が、世界の多くの人々を魅了してきました。また、米国は学術面でも長く世界の中心であり続け、今でも世界中から優秀な人材が米国に集まっています。
これらの帝国と比較すると、現在の中国に魅力的な文化が決定的に不足していることは否定できません。上記の記事でも述べましたが、「西洋の衝撃」により中華文化・価値観が没落して以降では、第三世界の代表として「高邁な理想」を掲げていた毛沢東政権期のほうが、中国が文化面で世界に与える影響力はずっと大きかったのではないか、と思います。中国の興隆は、「伝統中華の復興」というよりは、欧米を規範としての「近代国家の発展」としての側面のほうが圧倒的に強いでしょうから、おそらく、中国が世界に提示できる「魅力的な文化」は、「伝統的中華文化」ではないでしょう。
中国が世界に提示できる最初の魅力的な文化の有力候補は、経済力と比例して発展させやすく、中国の「核心的利益」と抵触する可能性の低い自然科学だと思いますが、自然科学についても、人文・社会科学ほどではないにしても、中国の権威主義的・抑圧的体制により、優秀な人材が集まりにくくなるところはあるでしょうから、中国が自然科学の分野で世界の中心になれるかというと、楽観視はできないように思います。もちろんそれでも、経済力というか経済規模の大きさは、自然科学の発展にたいへん有利とは言えるでしょうが。
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