都出比呂志『古代国家はいつ成立したか』(岩波書店)

 岩波新書(赤版)の一冊として、2011年8月に刊行されました。前方後円墳体制論の提唱者として有名な著者は、本書でも、さまざまな考古学的知見を取り入れつつ、自説を補強しています。けっきょくのところ、国家成立の問題は、国家をいかに定義するかによるので、最終的には、価値観の相違が重要になってくるのだろう、とは思います。とはいえ、考古学や文献史学などの研究成果を踏まえつつ、より整合的で時代・地域の対象を広げるような国家成立論をめざして見解の応酬が続くのは、有意義なことではあると思います。

 その意味で、おおむね日本列島における国家形成の問題に限定されているとはいえ、本書の意義は小さくないとは思います。ただ、本書で提示された見解のなかには、考古学的成果から復元し得る当時の社会の在り様を逸脱しているところもあるのではないか、との懸念はあります。それは、弥生時代のリーダーと古墳時代の首長との支配体制の違いの強調にもあるのですが、そもそも、前方後円墳体制論への根本的な疑問として、前方後円墳の普及や規模がどこまで当時の政治秩序を反映しているのか、という問題があります。もちろん、あるていど企画が統一されていたらしい前方後円墳の広範な存在は重要だとは思いますが。

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