さかのぼるネアンデルタール人による海産資源の利用

 ネアンデルタール人による海産資源の利用についての研究(Cortés-Sánchez et al., 2011)が報道されました。この研究では、スペイン南部のマラガ市にあるバホンディージョ洞窟(Bajondillo Cave)の発掘・分析成果から、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)が貝を食していた年代が、じゅうらい、貝を恒常的に食していたと推定される最古の年代(南アフリカのピナクルポイント付近にある海食洞の164000年前頃の事例、関連記事)と同じくらいまでさかのぼるのではないか、と主張されています。

 これまで、ネアンデルタール人の海洋資源の利用については、5万年前頃の海洋酸素同位体ステージ3をさかのぼる確実な証拠はない、とこの研究では指摘されています(同じくイベリア半島南部で、115000年前頃にネアンデルタール人が海洋資源を利用していた、と以前より指摘されていますが、確実な証拠ではないということでしょうか、関連記事)。バホンディージョ洞窟の堆積は、考古学的に20層に分類されています(数字が大きいほどより下の層となります)。各層の年代は、放射性炭素・熱ルミネッセンス・ウラン系法により測定されました。

 最下層に近い19層は、ウラン系列法により15万年前頃と推定されており(放射性炭素法では測定できない古さです)、牛・鹿・山羊・兎などの動物とともに、貝も発見されており、焼かれた痕跡も認められます。この19層からは人骨が発見されていないようで、この年代に洞窟を利用していた人類種がネアンデルタール人と断定されるわけではないのですが、19層の石器は南部イベリアの中部旧石器に位置づけられますので、ネアンデルタール人の所産である可能性が高いとは思います。

 この研究では、これはネアンデルタール人の海産資源の利用の証拠としては最古になる、と主張されており、ネアンデルタール人と現生人類(ホモ=サピエンス)とが、それぞれ独自に貝の採集・消費を始めた可能性が指摘されています。また、貝の消費など海産資源の利用が、もはや「現代的行動」の指標足り得ないことも指摘されていますが、海産資源の利用に限らず、とにかくネアンデルタール人と現生人類との間に差異を見出し、それをネアンデルタール人の滅亡と現生人類の繁栄とに結びつけるような見解は、現生人類アフリカ単一起源説が圧倒的に優勢になり始めた時期に顕著だった、ネアンデルタール人の過小評価に起因するではないか、と思います。

 海産資源の利用のように、この研究以前から、現生人類特有の特徴・行動とされていたもので、ネアンデルタール人にも認められるものが、しだいに増えてきたように思います。その意味で、この研究も、ネアンデルタール人「復権」という近年の動向に沿ったものと言えるでしょう。ただ、この研究で提示された各年代測定法のなかには、相互にやや離れている年代を提示したものもあり、年代の絞り込みは、今後も大きな課題となり続けるのでしょう。また、貝の採集・消費についても、ネアンデルタール人と現生人類がそれぞれ独自に始めたのではなく、人類による海産資源の利用は75万年前頃までさかのぼる可能性もありますから(関連記事)、ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先が存在した時点で、すでに行なわれていた可能性が高いように思います。


参考文献:
Cortés-Sánchez M, Morales-Muñiz A, Simón-Vallejo MD, Lozano-Francisco MC, Vera-Peláez JL, et al. (2011) Earliest Known Use of Marine Resources by Neanderthals. PLoS ONE 6(9): e24026.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0024026

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