現生人類の起源に関する近年の見解のまとめ
現生人類の起源に関する近年の見解をまとめた報道(Gibbons., 2011A)を読みました。この報道は、昨年になって公表された、現生人類(ホモ=サピエンス)と、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)およびデニソワ人(が分類されるべき人類種もしくは亜種)との交雑の可能性を指摘した研究(関連記事1および関連記事2)を踏まえて、現生人類の起源に関する問題の近年の動向をまとめ、この問題に関わってきた研究者の現時点(正確には、昨年末~今年初めのことですが)の見解を紹介しています。近年の研究動向については、とくに目新しい情報はないのですが、なかなか上手くまとめられていると思いますし、簡潔とはいえ、主要な研究者の現時点での見解を知ることができて、有益な記事だと思います。
この報道にあるように、現生人類の起源について、1980年代以降、アフリカ単一起源説と多地域進化説の間で激論が展開されてきましたが、ミトコンドリアDNAをはじめとして遺伝学での研究が進展すると、Y染色体でも他の核DNAの断片でもミトコンドリアDNAでも、遺伝的多様性がもっとも高い現代人はサハラ砂漠以南のアフリカ人であることが明らかになったことから、しだいにアフリカ単一起源説が優勢になり、1997年にネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが解析され、現代人のそれとは大きく異なることが明らかになると、アフリカ単一起源説のなかでも、アフリカ起源の現生人類が世界各地に進出する過程で、ネアンデルタール人など各地の先住人類との交雑はなく、完全な置換があった、とする見解が有力になりました。
ところが昨年、上述したように、現生人類と、現生人類とは異なる系統のネアンデルタール人やデニソワ人との交雑の可能性が高いことを指摘した研究が公表され、現在では完全置換説を否定する傾向が強くなっています。多地域進化説の大御所であるミルフォード=ウォルポフ氏は、交雑の可能性を指摘したこれらの研究を歓迎していますが、多くの研究者は、交雑を認めるにしても、古典的な多地域進化説が妥当だと認められるわけではない、と考えています。
ウォルポフ氏の教え子であるフレッド=スミス氏は、現代人の祖先のほとんどがアフリカ起源だと認めつつ、現代人のゲノムの10%ほどは、ネアンデルタール人やデニソワ人などの絶滅ホモ属に由来する、と考えていました。ギュンター=ブラウアー氏も、交雑の頻度は低かったと想定していたものの、同様の見解を主張していたことが、この報道では紹介されています。現生人類の起源に関して、現時点ではスミス氏やブラウアー氏の見解がもっとも説得力があると言えそうです。私も、一時は完全置換説を支持していましたが、2003~2004年頃に、ブラウアー氏の見解を支持するようになりました。もっとも、今後の研究の進展により、どのように通説が変わるのか、不明なところが多分にあるのが、古人類学の怖さであり面白さでもある、と思います。
またこの報道では、種区分という難問についても触れられています。ネアンデルタール人やデニソワ人が現生人類と交雑したとするならば、ネアンデルタール人もデニソワ人も現生人類も同種ではないか、との見解が提示されるのは当然でしょう。新多地域進化説では、ホモ=サピエンスは200万年前近くにまでさかのぼって存在したことになるのですが(一般的にはエレクトスやエルガスターとも分類されるアフリカの最初期のホモ属もサピエンスと分類されます)、今後の人類進化における交雑の研究の進展によよっては、これまでほとんど無視されてきたこうした主張への支持が増えるかもしれません。
参考文献:
Gibbons A.(2011A): A New View Of the Birth of Homo sapiens. Science, 331, 6016, 392-394.
http://dx.doi.org/10.1126/science.331.6016.392
この報道にあるように、現生人類の起源について、1980年代以降、アフリカ単一起源説と多地域進化説の間で激論が展開されてきましたが、ミトコンドリアDNAをはじめとして遺伝学での研究が進展すると、Y染色体でも他の核DNAの断片でもミトコンドリアDNAでも、遺伝的多様性がもっとも高い現代人はサハラ砂漠以南のアフリカ人であることが明らかになったことから、しだいにアフリカ単一起源説が優勢になり、1997年にネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが解析され、現代人のそれとは大きく異なることが明らかになると、アフリカ単一起源説のなかでも、アフリカ起源の現生人類が世界各地に進出する過程で、ネアンデルタール人など各地の先住人類との交雑はなく、完全な置換があった、とする見解が有力になりました。
ところが昨年、上述したように、現生人類と、現生人類とは異なる系統のネアンデルタール人やデニソワ人との交雑の可能性が高いことを指摘した研究が公表され、現在では完全置換説を否定する傾向が強くなっています。多地域進化説の大御所であるミルフォード=ウォルポフ氏は、交雑の可能性を指摘したこれらの研究を歓迎していますが、多くの研究者は、交雑を認めるにしても、古典的な多地域進化説が妥当だと認められるわけではない、と考えています。
ウォルポフ氏の教え子であるフレッド=スミス氏は、現代人の祖先のほとんどがアフリカ起源だと認めつつ、現代人のゲノムの10%ほどは、ネアンデルタール人やデニソワ人などの絶滅ホモ属に由来する、と考えていました。ギュンター=ブラウアー氏も、交雑の頻度は低かったと想定していたものの、同様の見解を主張していたことが、この報道では紹介されています。現生人類の起源に関して、現時点ではスミス氏やブラウアー氏の見解がもっとも説得力があると言えそうです。私も、一時は完全置換説を支持していましたが、2003~2004年頃に、ブラウアー氏の見解を支持するようになりました。もっとも、今後の研究の進展により、どのように通説が変わるのか、不明なところが多分にあるのが、古人類学の怖さであり面白さでもある、と思います。
またこの報道では、種区分という難問についても触れられています。ネアンデルタール人やデニソワ人が現生人類と交雑したとするならば、ネアンデルタール人もデニソワ人も現生人類も同種ではないか、との見解が提示されるのは当然でしょう。新多地域進化説では、ホモ=サピエンスは200万年前近くにまでさかのぼって存在したことになるのですが(一般的にはエレクトスやエルガスターとも分類されるアフリカの最初期のホモ属もサピエンスと分類されます)、今後の人類進化における交雑の研究の進展によよっては、これまでほとんど無視されてきたこうした主張への支持が増えるかもしれません。
参考文献:
Gibbons A.(2011A): A New View Of the Birth of Homo sapiens. Science, 331, 6016, 392-394.
http://dx.doi.org/10.1126/science.331.6016.392
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