古人類のDNA解析から見えてくる人類史における交雑と進化

 ホモ=サピエンス(現生人類)と他の人類との交雑という観点を中心に、近年の古人類のDNA解析について概観し、最新の知見を伝える報道(Callaway., 2011)を読みました。近年の古人類のDNA解析の成果では、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)のゲノム解読の進展と、ネアンデルタール人とも現生人類とも異なる、シベリアのデニソワ洞窟で発見された人類(デニソワ人)のDNAの特定が注目されますが、この報道でも、両者についてこれまでの研究成果が取り上げられています。

 ネアンデルタール人もデニソワ人も、ミトコンドリアDNAだけではなく核DNAも解析されて現代人と比較され、両者ともに現生人類との交雑が過去にあった可能性の高いことが指摘されています。ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、90000~65000年前頃と推測されています。現代人のアフリカ系にはネアンデルタール人との交雑の痕跡が発見されておらず、アジア人・ヨーロッパ人も含む現代人の非アフリカ系はネアンデルタール人との交雑の可能性が高そうだということで、アジア人とヨーロッパ人とが分岐する前に起きた可能性が高そうなことから、両者の交雑の場所は、中東だった可能性が高い、と推測されています。

 一方、デニソワ人と現生人類との交雑の痕跡については、現在のところ、現代人ではメラネシア人にしか見出されておらず、デニソワ人はかつてアジアに拡散していた可能性が指摘されています。かつてアジアに拡散していたデニソワ人は、人口が少なく現生人類との接触も稀であり、アジアのどこかで現代メラネシア人の祖先と交雑したのかもしれません。ただ、デニソワ人については、発見されている人骨が少なく、既知の人骨のなかに同種がいるのか否かといった問題も含めて、ネアンデルタール人と比較してもまだほとんど分かっていないため、現時点では、現生人類との交雑の場所について推測が難しいと言えるでしょう。

 現生人類は、ネアンデルタール人やデニソワ人との交雑により、免疫機構などにおいて有益な遺伝子を獲得したのではないか、とも推測されています。たとえば、ヒト白血球型抗原(HLA)のいくつかの型については、アジア人とヨーロッパ人に多く、アフリカ人には少ないものが、ネアンデルタール人とデニソワ人に見られます。そうしたことから、現代のアジア人やヨーロッパ人のヒト白血球型抗原のなかには、ネアンデルタール人やデニソワ人との交雑で得られたものもあるのではないか、とも推測されているのですが、そうした遺伝子の出現時期は、現生人類とネアンデルタール人およびデニソワ人との分岐よりも前のことではないのか、との反論もあります。

 ネアンデルタール人のゲノム解読が始まる前までは、現生人類とネアンデルタール人など他の人類との交雑を否定する傾向が強かったのですが、今では、現生人類と他の人類との交雑自体は、認める傾向が強くなっているように思われます。今後は、交雑があったという確証を得ることと、交雑があったとしてどの程度だったのか、交雑により現生人類はどのような遺伝子を獲得し、それが現生人類の進化においてどのような役割を果たしたのか、という問題の検証の進展を期待しています。


参考文献:
Callaway E.(2011): Modern humans may have picked up key genes from extinct relatives. Nature, 476, 136-137.
http://dx.doi.org/10.1038/476136a

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