西川誠『天皇の歴史07 明治天皇の大日本帝国』

 『天皇の歴史』全10巻の第7巻として、2011年7月に講談社より刊行されました。明治天皇を中心に、明治時代が描かれています。明治天皇がどのように政治に関わったのか、当時の政府高官は明治天皇をどのように評価し、またどう導こうとしたのか、という観点を中心に考察・叙述されています。明治天皇が、政治への意欲を最初からずっと持ち続けていたわけではなかったものの、大津事件や日清・日露戦争を通じて「建国の父祖」の一員へと成長していったことや、明治政府のさまざまな立場の人々が、それぞれの立場・価値観から明治天皇に関わっていたことが、具体的な事実によって詳しく述べられています。

 明治天皇は近代の天皇であり、江戸時代までの天皇とは断絶面が大きい、との見解が近年では一般にもすっかり浸透しているように思われるのですが、確かに、本書を読んでも、江戸時代との断絶は大きいように思われます。一方で、本書を読むと、外国人嫌いや出不精なところなど、明治天皇には江戸時代の天皇の在り様を継承したところも少なくないように思います。明治天皇が十代半ば過ぎまで京都の朝廷社会で育ったことを考えると、不思議ではないと思います。やや残念なのは、明治天皇と一般国民との関係について、詳しく叙述されていないことですが、なかなか面白く読み進められました。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック