全ゲノム塩基配列から推定される人口史

 全ゲノム塩基配列から人口史を推定した研究(Li, and Durbin., 2011)の要約を読みました。人口史は人間の進化の理解に重要で、これまでの多くの研究が指摘しているのは、東アジアとヨーロッパの現生人類集団に瓶首効果が認められるということで、それは6万年前頃の現生人類の出アフリカと関連づけられてきました。しかし、これまでの研究は、わずかなパラメータで単純化された人口モデルを仮定しなければならず、瓶首効果の始まりと終わりの時期について正確なデータを提供できているとは言えません。

 以上のように指摘したこの研究は、中国人男性1人・韓国人男性1人・ヨーロッパ人3人・ヨルバ人男性2人の完全なゲノム塩基配列を用いて、100万年前~1万年前までの人類の集団サイズを推定しています。その結果、ヨーロッパ人集団と中国人集団は、2~1万年前以前には、よく似た集団サイズの変遷史を有しており、両集団とも6~1万年前に厳しい瓶首効果を経験した、と推定されました。一方、アフリカのヨルバ人集団は、それ以前により穏やかな瓶首効果を経験し、回復した、とも推定されました。また、いずれの集団も、25~6万年前までの間に有効集団サイズの上昇を経験していた、とも推定されました。

 さらにこの研究では、現生人類の遺伝的分化が12~10万年前に始まっていた可能性とともに、4~2万年前頃までは、かなりの遺伝子交換があった可能性も指摘されています。現代人のゲノムから過去の人類の進化・移動経路およびその時期などを推定することは、今ではすっかりなじみ深い研究方法となりましたが、現代人のゲノムのみでは、限界があることも否定できません。しかし、この研究のように大量のデータを解析していくことにより、その限界を広げていくとともに、より妥当な人類史を復元していくことが可能になるでしょう。


参考文献:
Li H, and Durbin R.(2011): Inference of human population history from individual whole-genome sequences. Nature, 475, 493–496.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10231

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