加藤博文『シベリアを旅した人類』
ユーラシア・ブックレットの第123巻として、東洋書店より2008年6月に刊行されました。人類の最大の特徴は、地球上のほとんどあらゆる地域において生活しているという、生活空間の広さにある、との認識を前提として、基本的には熱帯型の生物である人類が、いかにして寒冷なシベリアへと到達し、そこで生活していたのか、ということが考古学の研究成果に基づいて叙述されています。本書の主題は、現生人類(ホモ=サピエンス)がいかにしてシベリアに進出し、どのように寒冷なシベリアに適応して生活していったのか、ということなのですが、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)についても、現生人類との連続・断絶という問題を中心に、少し触れられています。ただ、現生人類・ネアンデルタール人以前の人類のシベリア進出については、ほとんど触れられていません。また、本書の刊行は2008年ですから、当然のことながら、デニソワ人については言及されていません。
そのことと関連するのですが、本書で指摘されているように、シベリアの旧石器時代の発見されている人骨は少ないので、人類の進化について、確たる推測がなかなか難しい、という事情があります。そのためもあって本書は、考古学の研究成果にかなり依拠しているのですが、石器製作技術も含めて更新世の文化を、特定の人類種と結びつける傾向があり、気になるところです。シベリアの旧石器時代の発見されている人骨は少ないわけですから、この問題については、もっと慎重になるべきではないか、と思います。本書の刊行後に公表された研究なので、仕方のないところもありますが、本書では現生人類にのみ認められるとされている装身具について、ネアンデルタール人にも認められる、とその研究では主張されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/201001article_14.html
このような疑問点もありますが、シベリアへの人類の進出を、考古学の研究成果から環境への技術的適応として叙述する試みは、おおむね妥当なものだと思いますし、なかなか読み応えがありました。数年後に、新たな研究成果を取り入れた改訂版が刊行されることを期待しています。本書はユーラシア・ブックレットの一冊として刊行されたのですが、ユーラシア・ブックレットとは、主として旧ソ連を構成していたユーラシア諸国に関する多面的な情報を提供していくために、ユーラシア研究所のブックレット編集委員会が企画したものです。ユーラシア研究所の前身は、総合的なソ連研究を目的として1989年1月に設立されたソビエト研究所で、ソ連崩壊後の1993年にユーラシア研究所と改称し、旧ソ連を構成していたユーラシア諸国についての研究と学術交流を目的とし、「日本国民とユーラシア諸国民との相互理解と友好の発展」という観点から、ユーラシア諸国に関する正確な知識の普及に努めている、とのことです。ユーラシア・ブックレットには他にも面白そうなものがあり、注目すべきブックレットだと思います。
そのことと関連するのですが、本書で指摘されているように、シベリアの旧石器時代の発見されている人骨は少ないので、人類の進化について、確たる推測がなかなか難しい、という事情があります。そのためもあって本書は、考古学の研究成果にかなり依拠しているのですが、石器製作技術も含めて更新世の文化を、特定の人類種と結びつける傾向があり、気になるところです。シベリアの旧石器時代の発見されている人骨は少ないわけですから、この問題については、もっと慎重になるべきではないか、と思います。本書の刊行後に公表された研究なので、仕方のないところもありますが、本書では現生人類にのみ認められるとされている装身具について、ネアンデルタール人にも認められる、とその研究では主張されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/201001article_14.html
このような疑問点もありますが、シベリアへの人類の進出を、考古学の研究成果から環境への技術的適応として叙述する試みは、おおむね妥当なものだと思いますし、なかなか読み応えがありました。数年後に、新たな研究成果を取り入れた改訂版が刊行されることを期待しています。本書はユーラシア・ブックレットの一冊として刊行されたのですが、ユーラシア・ブックレットとは、主として旧ソ連を構成していたユーラシア諸国に関する多面的な情報を提供していくために、ユーラシア研究所のブックレット編集委員会が企画したものです。ユーラシア研究所の前身は、総合的なソ連研究を目的として1989年1月に設立されたソビエト研究所で、ソ連崩壊後の1993年にユーラシア研究所と改称し、旧ソ連を構成していたユーラシア諸国についての研究と学術交流を目的とし、「日本国民とユーラシア諸国民との相互理解と友好の発展」という観点から、ユーラシア諸国に関する正確な知識の普及に努めている、とのことです。ユーラシア・ブックレットには他にも面白そうなものがあり、注目すべきブックレットだと思います。
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