アフリカヌスとロブストスの性差に伴う移動範囲の違い(追記有)

 アウストラロピテクス=アフリカヌスとパラントロプス=ロブストス(アウストラロピテクス属と分類する見解もあります)の、性差に伴う移動範囲の違いについての研究(Strother et al., 2011)が報道されました。この研究では、南アフリカにあるスタークフォンテインおよびスワートクランズ洞窟遺跡で発見された、240~170万年前頃のアフリカヌスとロブストスの計19体の歯の化石の、ストロンチウム同位体含有比が調べられました。歯のストロンチウム同位体比は、その動物が生存中にどこで水を摂取したかを示す優れた指標になります。

 この測定の結果、小柄な人類のほうが、発見された地域とは異なるストロンチウム同位体組成を有している割合が高いことが明らかになりました。初期人類では性別による体格差の違いが大きかった(性的二型)との見解を考慮すると、初期人類においては、女性は男性よりも移動範囲が広く、出生集団から拡散していくことが多かったのではないか、とこの研究では指摘されています。また、こうしたパターンはチンパンジー・ボノボ・多くの人間集団に見られますが、ゴリラや他の霊長類には見られない、とも指摘されています。

 この研究で指摘されているように、これまで初期人類間の移動・居住パターンは、形態学・石材源・系統発生モデルなどから間接的に推論されてきており、初期人類の生態学・生物学・社会的構造・進化についての理解は制限されてきましたから、その意味では、ひじょうに興味深い研究です。ただ、初期人類の性的二型という見解も確定したとは言い難く、現時点では、初期人類では男性の方が行動圏が小さかったのか、またそれが妥当だとして、そうした行動パターンはチンパンジーと人類の共通祖先から継承されたものなのか、さらには地域・年代を越えて人類史で広く存在したものなのか、といったことについて、断定はできないでしょう。ただ、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)の婚姻システムについての研究と符合するところもあり(関連記事)、その意味でも大いに注目されます。



参考文献:
Copeland SR. et al.(2011): Strontium isotope evidence for landscape use by early hominins. Nature, 474, 7349, 76–78.
https://doi.org/10.1038/nature10149


追記(2023年6月27日)
 『ネイチャー』の日本語サイトからの引用を掲載し忘れていたので、以下に掲載するとともに、書誌情報を現在の形式に改めました。



考古:ストロンチウム同位体が示す初期人類の地形利用の証拠

考古:アウストラロピテクス類の移動を示す歯の記録

 絶滅した動物種の行動圏および土地利用の習性を推測するには、どうすればいいだろうか。1つの方法は、歯の化石のストロンチウム同位体含有比を測定することだ。なぜなら、ストロンチウムの同位体比は、その動物が生存中にどこで水を摂取したかを示す優れた指標になるからである。この「水の痕跡」は、環境の地質によって決定される。南アフリカで出土したアウストラロピテクス・アフリカヌスおよびパラントロプス・ロブストゥスの化石標本に関するストロンチウム同位体研究によって、女性と推測される小型の個体は、男性よりも行動圏が広かったことが明らかになった。このことから、当時の女性には出生集団から離れて別の集団に加わる傾向があったが、一方で男性は出生地にとどまる傾向があったと考えられる。この行動特性はヒトおよびチンパンジーのものであり、大部分のゴリラおよびほかの霊長類では見られない。

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