鈴木眞哉『戦国「常識・非常識」大論争』

 歴史新書の一冊として洋泉社より2011年2月に刊行されました。副題は「旧説・奇説を信じる方々への最後通牒」という挑発的なもので、じっさい、内容も挑発的ではあるのですが、正直なところ、これまでに著者が提示してきた見解を挑発的に言い換えただけ、といったところが多分にあり、目新しい見解は提示されておらず、著者の偏狭さのみが印象づけられるという結果になっています。著者が提示する見解自体には、納得できるものが多いので、なんとも残念です。もっとも、著者の主観では、より説得力のある自説があまり受け入れられていないことへの苛立ちがあるのだ、ということになるのでしょう。

 本書で私が注目したのは、昨日このブログで取り上げた藤田達生『信長革命』
https://sicambre.seesaa.net/article/201104article_8.html
にたいする批判で、本書の校正中に『信長革命』が刊行されたという事情があるため、『信長革命』にたいする批判は付記として追加されています。本書の付記自体はわずかな分量ですが、そこで紹介されている本も読んだうえでの率直な感想は、本能寺の変に関する藤田氏の見解、とくに藤田説の根拠となる書状についての解釈には、大いに問題があるのではないか、というものです。藤田氏の見解には傾聴すべきものが多く、本能寺の変を当時の政権構造から読み解こうとする姿勢には賛同しますが、藤田氏にはもっと説得力のある反論が求められている、と思います。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック