過去の遺産を食いつぶす

 この20年ほどの日本社会全体は、過去の遺産を食いつぶしているという側面が多分にあるように思うのですが、ここではそのような大問題を扱おうというわけではなく、大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』と『3年B組金八先生』について、雑感を述べていくことにします。『3年B組金八先生』の完結編となるスペシャル番組が、過去の遺産に頼りっきりで、それを食いつぶしたような内容だったという感想は、このブログでも述べましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201103article_30.html
それは、大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』にも当てはまることではないか、と思います。

 本題から外れるのですが、上記の記事で述べるのを忘れていたのは、第3シリーズがほぼ完全に無視されていたことです。第3シリーズは、私がはじめてリアルタイムで視聴した『3年B組金八先生』シリーズなだけに、それなりに思い入れがあります。シリーズ中唯一の1クールでの放送となったことや、唯一桜中学が舞台ではなかったことなど、シリーズ全体でみると異色の作品だという事情もあるのですが、他のシリーズと比較して派手な話ではなく、地味な印象を与えることも、取り上げられなかった一因かもしれません。

 さて、本題ですが、『3年B組金八先生』は第3シリーズ以降視聴率が低下していき、最終シリーズとなった第8シリーズでは平均視聴率が10%を切ってしまいました。もちろん、テレビドラマは、1990年代前半までと比較すると、全体的に視聴率が低下傾向にあるとは言えるでしょうが、『3年B組金八先生』の視聴率の低下は、そうした全体的な傾向を下回るものだったように思います。視聴率の低下に伴い、脚本・演出が過激化していき、それは第7シリーズで頂点に達した感がありますが、第5シリーズで脚本・演出が過激化するにつれて視聴率が上向きになっていったことからも、過激な脚本・演出は視聴率対策として一定の効果があったように思います。脚本・演出が第5シリーズ~第7シリーズよりも穏やかになった第8シリーズの視聴率が10%未満と低迷したことから考えて、おそらく、第5シリーズ以降も第3シリーズのような作風だと、もっと視聴率が低かった可能性は高いでしょう。

 第6シリーズ以降は、初回の視聴率が高く、それ以降は初回の視聴率を下回ることがほとんどだったのですが、それでも第6シリーズと第7シリーズでは、最終回のみが何とか初回の視聴率を上回りました。しかし第8シリーズでは、初回が最高視聴率となり、多くの回で視聴率が10%を下回りました。もちろん、視聴率が高ければ名作とは限らず、逆に視聴率が低ければ駄作とも限らないわけですが、『3年B組金八先生』が視聴者の支持を失っていったことは間違いないでしょう。作品の質はさておくとしても、視聴者の支持という意味で、『3年B組金八先生』というブランドが次第に色褪せていったことは否定できず、ついには製作陣も続編を断念して完結編の放送を決断したわけですが、それは、製作陣の自信のなさを示しているかのように、過去の遺産に頼りっきりで、それを食いつぶした内容となりました。

 『3年B組金八先生』のブランド力が並大抵のもではなかったことは、長時間放送の駄作である完結編の視聴率が20%近かったことからも明らかですが、だからといって第9シリーズで高視聴率がとれるという保証はまったくなく、おそらくは第8シリーズ以下の視聴率になったでしょう。『3年B組金八先生』はテレビドラマとしては長い歴史を有しており、とくに初期において築かれたブランド力はたいへんなものでしたが、ブランド力は一度獲得したら無為無策でも維持できるというものではなく、不断の努力が必要なのでしょう。これはテレビドラマに限らず、伝統と呼ばれている事象一般にも当てはまることなのではないか、と思います。

 大河ドラマは『3年B組金八先生』以上の歴史を有しており、BSハイビジョンで先行放送されているにも関わらず、今のところ問題の多い『江~姫たちの戦国~』が、今後さらに視聴率が低下する可能性が低くはないといっても、依然として15%以上の視聴率をとっていることからも、大河ドラマのブランド力は『3年B組金八先生』を大きく上回ると言えるでしょう。『江~姫たちの戦国~』の場合、50年近い大河ドラマの歴史的遺産を継承しているとともに、直接的には、多分に3年前の大河ドラマ『篤姫』の遺産を継承していると言えるでしょう。

 脚本家と音楽担当が『篤姫』と同じで、『篤姫』と同じく姫様を主人公としていることなど、『江~姫たちの戦国~』が高視聴率だった『篤姫』の再現を狙い、高視聴率の獲得が至上命題になっていることは、視聴者にも露骨に見えてきます。大河ドラマでは視聴率が低い傾向にあった幕末を舞台とした『篤姫』とは異なり、天正~元和偃武という現代日本ではもっとも人気があるだろう時代を舞台とし、いわゆる三英傑も主要人物として登場するなど、受ける要素を詰め込んだ『江~姫たちの戦国~』が高視聴率をとることを、製作したNHKのみならず、関連本を多数刊行している出版業界も確信していたことでしょう。

 しかし、『江~姫たちの戦国~』の視聴率は右肩下がりの傾向にあり、第11回はついに15.7%まで落ち込みました。もちろん、視聴率が低迷しているからといって駄作とは限りませんが、この作品は、分かりやすさを追求していることはよく分かりますから、「難解で高尚である」ために一般受けしていないのではなく、荒唐無稽な展開に多くの視聴者が見限った可能性が高いでしょう。製作陣が視聴者を舐めていたというところもあるでしょうし、『篤姫』の高視聴率により、脚本家が高慢になって勝手気ままにやっているということでもあるのでしょう。

 おそらく製作陣には、姫様主人公・天正~元和偃武という時代・三英傑など、受ける要素を詰め込めば高視聴率をとれるだろう、という驕りがあったのではないか、と思います。これらは、大河ドラマの始まる前から大河ドラマとは別のメディアでもブランド力を獲得してきましたが、大河ドラマがこれらのブランド力を育んできた、という側面も多分にあります。『江~姫たちの戦国~』は、こうしたブランド力というか過去の遺産に頼り切った感のあるドラマとなっており、そうした安易な姿勢が視聴率の低迷を招いているのだという私見がかなりのていど妥当なのだとしたら、製作陣に路線修正を促すかもしれないという意味で、悪いことではないな、と思います。映画もドラマも受ける要素を詰め込めばよいのではなく、全体のバランスを考えながら総合的に作り上げていくものであり、過去の遺産に頼り切るのではなく、新たな試みも必要となってくるでしょう。その意味で、残念ながら成功したとも妥当だとも言い難いのですが、昨年の大河ドラマ『龍馬伝』の意欲的な試みは、一定以上評価してもよいのではないか、と思います。

 過去の遺産に頼り、それを食いつぶすような安易な姿勢が、ブランド力を低下させるということもあり、このままでは、大河ドラマが『3年B組金八先生』のように終焉を迎える可能性もあります。『江~姫たちの戦国~』は、もう大きな路線転換はないでしょうし、視聴率が初期の水準にまで回復する可能性は低いでしょうから、来年の大河ドラマ『平清盛』は、やや大げさに言えば、今後の大河ドラマの運命を決める重要な作品となるのかもしれません。『平清盛』は、藤本有紀氏の脚本ということで大いに期待しているのですが、不安もあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/201103article_23.html
この不安が杞憂であるような傑作になることを願っているのですが。

この記事へのコメント

メイ
2011年04月05日 12:33
こんにちは

江に「大河ドラマ」という看板がなければ
今より更に視聴率は下がっていたと思います。
ブランド力で得ている視聴率です。

私は既に江を「大河」として捉えておらず
ドラマの時代設定が偶々戦国時代だっただけ、
と開き直って視聴している部分もあります。
矛盾しているようですが、だからこそ楽しんで
視聴し続けられるのかもしれません。
2011年04月05日 20:50
私も『篤姫』の時のように割り切って見ようとしているのですが、それでも不愉快なところが多分にあるのは否めません。

江が秀忠と結婚する頃には、落ち着いて見られるのではないか、とまだ期待してはいるのですが。

この記事へのトラックバック