スターシステム(橋田壽賀子氏にはなれなかった田渕久美子氏)

 音楽・スポーツ分野もそうですが、映像作品の分野ではとくに、関連業界全体が特定のスターを育てていこうとしているのだな、と思わせられることがよくあります。スターを育てられれば、安定した収益構造を築きやすくなり、それは、テレビ局・映画会社のみならず、出版業界や、広告に起用するという形でさまざまな分野の産業にも同様の効果をもたらしやすくなります。こうなると、広告に起用したり特集記事を組んだりすることで知名度・人気が上がっていき、ドラマ・映画のヒットにつながっていくという、相乗効果も見られるのですが、露出しすぎると飽きられやすくなることも確かで、あえて露出を抑えていく、というスター戦略もあります。映像作品の分野では、俳優がスター扱いされることが多いのですが、時として、俳優以外の監督などがスター扱いされることもあります。

 ここまでは一般論で、これからが本題なのですが、今年の大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』を見ていて思うのは、NHKと一部の業界は、脚本家の田渕久美子氏をある意味でスターとして育てようとしたのではないか、ということです。3年前の大河ドラマ『篤姫』が高視聴率をとり、評価の上がった田渕氏を、大河ドラマとしては短期間で再起用し、天正~元和偃武という現代日本でもっとも人気のあるだろう時代・三英傑の主要人物としての登場・『篤姫』と同じく姫様主人公など、受けると思われる要素を詰め込んだのは、田淵氏を神格化し、今後も大河ドラマなどで頻繁に脚本家として起用していこう、とのNHKの意図があったためではないか、と私は推測しています。

 おそらく、NHKの念頭にあったのは1980年代の橋田壽賀子氏の大成功で、橋田氏の脚本による1980年代の大河ドラマ『おんな太閤記』・『いのち』・『春日局』と朝の連続テレビ小説の『おしん』はいずれも高視聴率でしたが、とくに『おしん』は、現在でも日本の連続ドラマ史上最高視聴率となっています。20世紀後半と比較して、21世紀以降は全体的にテレビドラマの視聴率が低下しており、そうした中で『篤姫』は視聴率ではたいへんな成功を収めました。田渕氏に期待が寄せられたのは当然とも言えますが、『江~姫たちの戦国~』の視聴率は『篤姫』には遠く及ばず、ほぼ同じ時代を扱う一昨年の『天地人』にも及ばないでしょう。

 『おんな太閤記』・『おしん』・『いのち』・『春日局』が、いずれも橋田氏の原作・脚本だったのにたいして、田渕氏の場合、『篤姫』には他者の原作があり、『江~姫たちの戦国~』は田渕氏の原作・脚本だったことから考えて、田渕氏の才能が橋田氏には及ばないと簡単に結論を下してもよいのかもしれませんが、橋田氏にも傲慢なところは見受けられるものの、田渕氏と比較すると、それが作品に反映されることは少ないのも両者の差なのかな、とも思います。もっとも、橋田作品はほとんど見ていないので、この推測が妥当なのか、あまり自信はないのですが。

 田渕氏に期待を寄せていたのはNHKだけではなく、出版業界も同様だと思います。近所のいずれもさほど大きくない数軒の書店でも、『江~姫たちの戦国~』の特設コーナーが設けられていたくらいでした。さらに、『江~姫たちの戦国~』は田渕氏の原作で漫画化されており、
http://kc.kodansha.co.jp/magazine/news_detail.php/16541/2987
出版業界が『江~姫たちの戦国~』、さらにはその原作者の田渕氏に大いに期待を寄せていたことが窺えます。ちなみに、『おしん』も漫画化されたそうです。

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  • 田渕久美子氏についての醜聞の補足・訂正

    Excerpt: 昨日、今週号の『FLASH』に掲載された、田渕久美子氏についての醜聞記事を取り上げましたが、 http://sicambre.at.webry.info/201105/article_18.html .. Weblog: 雑記帳 racked: 2011-05-19 00:00