佐々木恵介『天皇の歴史03 天皇と摂政・関白』
『天皇の歴史』全10巻の第3巻として、2011年2月に講談社より刊行されました。本書が対象とするのは9世紀半ば~11世紀半ばで、いわゆる摂関政治の時代を扱っています。この時代の天皇の存在感が前代までと比較して薄いのではないか、と多くの人が考えているでしょうが、本書でも指摘されているように、それは、誰が天皇になっても摂政や関白や蔵人所などが天皇の権能を過不足なく行使できる体制が整えられた時代ということでもあり、天皇が制度化された、ということでもあるのでしょう。その意味で、天皇という枠組みが安定した、とも言えそうです。
本書は、このように天皇が制度化されていった様相を、儀式や人事権の変遷などから詳細に述べています。9世紀半ば以降に天皇が制度化されていった要因として、前代までと比較して、天皇の外出の回数が減少するだけではなく、その範囲が縮小していくなど、天皇が内に籠るようになっていったことが考えられます。これは、平安時代になって穢れの観念が肥大化していったことが要因になっているようで、それには、仏教思想の影響などがよく指摘されますが、平安京の人口密度が当時としては高く、不衛生な都市であったという現実が前提にあるようです。
穢れの観念の肥大化により、天皇はむやみに表に出るものではない、と考えられるようになったわけですが、これと関連して、天皇が多くの廷臣と君臣関係を確認しようとしていた前代と比較して、そのような志向がほとんど見られなくなり、天皇は少数の身近な廷臣との関係を重視するようになります。天皇が制度化していった結果として、天皇の権威を神器が高めるという関係から、神器を保持し継承する者こそが天皇である、という逆転した関係への変化を促し、それが、三種の神器の保全こそが最重要の課題と考えるような、大日本帝国末期の昭和天皇およびその側近たちの観念の端緒になったのではないか、と本書では指摘されています。
本書は、第1章~第3章で年代順にこの時代の政治史を概観し、第4章~第7章で個別の問題を検証しており、読者を意識した読みやすい構成を目指しているのでしょう。本シリーズは一般向けなので、これでよいのではないか、と思います。本書を読んで思ったのは、天皇という枠組みが古代から現代まで続いた理由の一つが、この時代に進展した、個々の天皇の政治的力量・人格に大きく左右されないという、天皇の制度化にあるのではないか、ということなのですが、この問題については、今後も考え続けていくつもりです。
本書は、このように天皇が制度化されていった様相を、儀式や人事権の変遷などから詳細に述べています。9世紀半ば以降に天皇が制度化されていった要因として、前代までと比較して、天皇の外出の回数が減少するだけではなく、その範囲が縮小していくなど、天皇が内に籠るようになっていったことが考えられます。これは、平安時代になって穢れの観念が肥大化していったことが要因になっているようで、それには、仏教思想の影響などがよく指摘されますが、平安京の人口密度が当時としては高く、不衛生な都市であったという現実が前提にあるようです。
穢れの観念の肥大化により、天皇はむやみに表に出るものではない、と考えられるようになったわけですが、これと関連して、天皇が多くの廷臣と君臣関係を確認しようとしていた前代と比較して、そのような志向がほとんど見られなくなり、天皇は少数の身近な廷臣との関係を重視するようになります。天皇が制度化していった結果として、天皇の権威を神器が高めるという関係から、神器を保持し継承する者こそが天皇である、という逆転した関係への変化を促し、それが、三種の神器の保全こそが最重要の課題と考えるような、大日本帝国末期の昭和天皇およびその側近たちの観念の端緒になったのではないか、と本書では指摘されています。
本書は、第1章~第3章で年代順にこの時代の政治史を概観し、第4章~第7章で個別の問題を検証しており、読者を意識した読みやすい構成を目指しているのでしょう。本シリーズは一般向けなので、これでよいのではないか、と思います。本書を読んで思ったのは、天皇という枠組みが古代から現代まで続いた理由の一つが、この時代に進展した、個々の天皇の政治的力量・人格に大きく左右されないという、天皇の制度化にあるのではないか、ということなのですが、この問題については、今後も考え続けていくつもりです。
この記事へのコメント
第3巻読了ですか!早いですね。管理人さん!
近くの大型書店に、本シリーズ置いてありました。私としては中世の天皇(朝廷)に興味がありますので、第4巻のレビュー、楽しみにしております。
私も中世史に強い関心をもっているので、第4巻を楽しみにしています。
過去記事を含めまして他記事も拝見しております。