更新世末期~完新世初期のアラスカの火葬と住居

 更新世末期~完新世初期のアラスカにおける火葬と住居についての研究(Potter et al., 2011)が公表されました。この研究についての記事もいくつか公開されています。
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2011-02/aaft-cc021811.php
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2011-02/uoaf-osn021911.php
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2011-02/nsf-doo022311.php

 この研究では、現在の中央アラスカである東部ベーリンジアで発見された遺跡について報告されています。この遺跡では、住居跡と火葬された子供の遺体が発見されました。子供の遺体は、火葬により損傷していることもあって性別の判定はできなかったのですが、歯が残っていたこともあり、3歳くらいではなかっただろうか、と推定されました。子供の年代は、放射性炭素年代測定法により暦年代で11500年前頃と推定されています。遺跡の状態は良好で、この時期のベーリンジアの住居跡や人骨の少なさからも、ひじょうに貴重な遺跡と言えそうです。

 この住居は夏だけ利用されていたようで、その床面は地面より27cm掘り下げられていました。この住居を利用していた人々は、子供の遺体の下で鮭やリスや雷鳥や他の小動物が発見されているように、近場の魚や鳥や小型哺乳動物を捕らえて食べていたようで、洗練された武器でバイソンやエルクのような大型動物を狩っていたと推測されている、これまでに研究されてきた近い時代の多くの遺跡とは異なっています。これは、じゅうらい研究されてきた遺跡が狩猟キャンプだったからではないか、と指摘されています。

 この住居の中央に楕円形の穴があり、子供が埋葬されていました。その穴の深さは45cmで、子供が埋葬される前は調理場やゴミ処理などにも利用されていたのではないか、と推測されています。子供の遺体には傷害や病気の痕跡は認められませんでした。子供の遺体の側には赤いオーカー片が二つありましたが、象徴的意味合いがあったのか否か不明であり、他には象徴的要素は見当たりませんでした。子供が穴に埋葬された後、住民は穴を塞ぎ、この住居を捨て去ったのではないか、と推測されています。

 この遺跡の文化要素は、アメリカ大陸北部の先住民文化および上部旧石器時代のシベリアの文化と、類似した点も異なる点もありますが、石器文化は、シベリアのウシュキ湖のそれと似ており、この遺跡の文化の起源がシベリアにあることを示唆している、と言えるでしょう。この遺跡も含めて、更新世末期~完新世初期の中央アラスカの文化をどう把握するのかという問題については、この時代の中央アラスカはひとつの大きな文化集団に分類されるのではないか、との見解が研究者間では有力なようです。


参考文献:
Potter BA. et al.(2011): A Terminal Pleistocene Child Cremation and Residential Structure from Eastern Beringia. Science, 331, 6020, 1058-1062.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1201581

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