吉川真司『天皇の歴史02 聖武天皇と仏都平城京』

 『天皇の歴史』全10巻の第2巻として、2011年1月に講談社より刊行されました。いわゆる奈良時代を中心としつつも、天智朝末や平安時代初期と、その前後の時代も扱われています。藤原京・平城京・長岡京・平安京など、都城の構造からもそれぞれの時代の政権の構造が考察されており、なかなか興味深いと思います。表題にあるように、平城京を仏都として把握するのが本書の中心的な視点で、それは、長岡京、さらには平安京の遷都後も変わらなかった、とされています。

 その理由として本書では、長岡京、さらには平安京への遷都にあたって、費用の問題などから、平安京に平城京の大寺院を移転することが見送られたのですが、これは、いわば「王都・仏都分離策」ではないか、と指摘されています。さらに本書では、こうした理解の前提として、「腐敗した仏教勢力の中心地である平城京」から「仏教勢力を排除する」ために平安京へと遷都した、という伝統的な見解ではなく、奈良時代と平安時代の仏教に連続性を認める見解が提示されています。

 本書を読むと、称徳や桓武など、本書で扱われている時代には専制的性格の強い天皇がいることが目立ち、平城や嵯峨にも在位時代には専制的傾向が伺われますが、これは、第3巻で扱われるであろう、幼帝の頻出する平安時代中期以降との大きな違いと言えるでしょう。それを天皇権力の形骸化と見ることも可能かもしれませんが、ある意味では体制の安定化ということでもあるのでしょう。そうした変化が、国家財政の悪化にともなう国制の変容とどのように関係しているのか、第3巻での叙述に注目しています。

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