河合信和『ヒトの進化 七〇〇万年史』

 ちくま新書の一冊として、筑摩書房より2010年12月に刊行されました。以前、河合氏のブログを取り上げたときに、
https://sicambre.seesaa.net/article/201011article_24.html
本書の刊行が近いことにも触れましたが、本書の概要は、河合氏のブログにて紹介されています。
http://blog.livedoor.jp/nobukazukawai/archives/1827034.html

 上記のブログ記事でも述べたのですが、じっさいに本書を読んでみても、ホモ属登場前の時代に意外と多くの分量が割かれているな、との印象は変わりませんでした。本書では、近年の研究成果を中心として、20世紀の重要な発掘も取り上げつつ、人類進化の様相が述べられています。正直なところ、人類進化に興味を持ったばかりの初心者にはやや敷居が高いと言えそうですが、人類進化に興味を持ち、多少なりとも本を読むなどして調べている人にとっては、じつに興味深い一冊になっていると思います。

 本書で提示されている見解はおおむね妥当なものですし、ジャーナリストらしくさすがに文章は読みやすく、良書と言ってよいでしょう。近所のそこそこ大きい書店で本書を購入したのですが、大量とまでは言えないにしても、それなりの数が入荷されており、このような良書が売れる社会であってほしい、とも思います。もっとも、本書の見解にまったく疑問がないわけではなく、たとえば、いわゆる北京原人の遺伝子は現代中国人にはまったく伝わっていない、とされていますが(P10)、北京原人の子孫と現生人類との低頻度の混血の可能性もあるのではないか、と思います(Garrigan et al.,2005)。


参考文献:
Garrigan D. et al.(2005): Evidence for archaic Asian ancestry on the human X chromosome. Molecular Biology and Evolution, 22, 2, 189-192.
http://dx.doi.org/10.1093/molbev/msi013

河合信和(2010) 『ヒトの進化 七〇〇万年史』(筑摩書房)

この記事へのコメント

kuroneko
2010年12月09日 18:49
考古学のほうで、こちらの記事が紹介されてました。見つけたら買おうっと。
2010年12月09日 20:02
本書は1000円以下で購入できますし、新書としては文字数も多く、内容も充実していますから、お勧めです。購入して手許に置いておく価値はじゅうぶんあると思います。
kuroneko
2010年12月10日 22:19
人類学ではないのですが、浅間山の噴火にまつわるブックレットも紹介されてました。群馬県の調査担当者がポンペイに研修に行った時のエピソードとあわせて、鎌原村ではこんな人類史の一コマがあったんだな、と。こちらも廉価でした。
2010年12月10日 22:29
日本のポンペイとも言われていますね。

ポンペイに関する本を最近読んだので、そのうちこのブログでも取り上げるつもりです。

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