岡村道雄『旧石器遺跡「捏造事件」』

 山川出版社より2010年11月に刊行されました。今年で旧石器捏造事件の発覚から10年ということで、関連書籍が複数刊行されています。このブログでも、角張淳一『旧石器掘捏造事件の研究』
https://sicambre.seesaa.net/article/201011article_23.html
と、松藤和人『検証「前期旧石器遺跡発掘捏造事件」』
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_3.html
を取り上げました。

 本書の著者は藤村新一氏(現在は再婚して苗字を変えているそうですが)とともに石器文化談話会に加わり、藤村氏とともに重要な「遺跡」の発掘を行ない、文化庁に勤務するようになり、藤村氏の関与した「遺跡」に直接関わることがなくなった後も、藤村氏関与の「遺跡」を一般向け著書で肯定的に紹介してきたことから、捏造の発覚後に、長年にわたる捏造を見抜けなかったと厳しく批判されましたし、共犯ではないか、と疑われることもありました。正直なところ、自己弁護的な叙述という印象も受けましたが、著者のような立場に置かれたならば、沈黙を続けるという選択肢もあったわけで、むしろそうするのが普通でしょうから、著者はある意味では良心的と言えるのかもしれません。

 著者も認めているように、旧石器捏造事件にはまだ疑問点が多く、とても全容が解明されたとは言えない状況です。著者は、一部(ではないかもしれませんが)で言われている、藤村氏との共犯関係を全面的に否定していますが、著者自身も指摘するこの旧石器捏造事件の疑問点を考えると、正直なところ、本書は著者と藤村氏との共犯関係の否定を証明できているとは、とても言えないでしょう。それでも、著者があえて旧石器捏造事件に再度言及し、旧石器捏造事件に関する疑問点も率直に述べていることから、著者が藤村氏と直接的な共犯関係になかったと推測するほうが妥当だろう、と考えることもできるかもしれません。

 著者は、旧石器捏造事件に関する疑問点を、藤村氏に直接問い質したいと思い、旧石器捏造事件の発覚後会っていなかった藤村氏と2009年12月に会った、とのことです。著者と藤村氏とのやり取りは、本書のなかでもっとも注目すべき一節だと思うのですが、藤村氏から明確な回答は得られなかったそうです。著者の記述がおおむね妥当だとすると、もはや藤村氏から新たな情報を得るのは難しそうで、こうなると、人格・プライバシーの問題があるかもしれないとはいえ、前・中期旧石器問題調査研究特別委員会の戸沢充則委員長(当時)の判断により、一部が伏せられて公開された「藤村告白メモ」の、全面公開がなされるべきではないか、とも思うのですが。

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