大河ドラマ『草燃える』再放送終了

 昨日、時代劇専門チャンネルで再放送されていた大河ドラマ『草燃える』が最終回を迎えました。画質・音質の悪さは覚悟していたのですが、映像の乱れや音の飛ぶ場面が少なからずあり、さすがに閉口しました。『風と雲と虹と』の画質・音質の悪さもどうかと思いましたが、『草燃える』と比較すると『風と雲と虹と』のほうがはるかに高画質・高音質と言ってよく、さすがに現状では『草燃える』完全版をDVDで発売することは無理だろうな、とおもったくらいです。

 しかし、この作品はそうした欠陥があっても全話を見るだけの価値がある傑作だ、と思います。人間の業と野心とを見事に描き出した脚本・演出・演技は、大河ドラマ史上でも上位にはいると言ってよいのではないか、と考えているくらいです。この作品は、前半の主人公が源頼朝、後半の主人公が北条政子で、第三の主人公が北条義時と言えるでしょうが、頼朝の存在感は主人公というにはやや物足りないところがありますし、政子についてもそれは同様です。

 私が思うに、この作品の真の主人公は活気にあふれる坂東武士団で、群像劇といった性格が強くなっています。後半になって、父の時政を隠居に追いやり、鎌倉幕府の中心人物となっていった義時の存在感が政子を上回るようになったのもそのためなのでしょう。純朴な好学の青年だった義時が、権力の亡者となり幕府の最高権力者となっていく過程は、じつに見応えがありました。その義時と対照的な人物として描かれた伊東祐之は、『風林火山』の平蔵など、大河ドラマではよく見られる主人公と対照的な人物なのですが、無常観を強めて野望・復讐心を捨てていく過程がやや唐突だったところはあるものの、『風林火山』の平蔵とは異なり、人物造形に成功したのではないか、と思います。

 後半の義時と同じく腹黒い三浦義村や、滑稽なところも見せつつ頼朝に忠義を尽くした安達盛長や、頼家の乳母父で舅でもある野心にあふれた比企能員や、怜悧なところを見せた梶原景時や、傲慢な態度を示し続けて誅殺されてしまった上総介広常といった坂東武士団のみならず、京都から鎌倉にやってきて幕府の重臣となった名参謀とも言うべき大江広元なども存在感を示し、作品を盛り上げました。また、後白河法皇・後鳥羽上皇・源通親など、都の人々も陰険さと野心とを見せ、楽しませてくれました。前半での退場が残念でしたが、苔丸をはじめとする盗賊たちの活気あふれる姿も強く印象に残りました。

 女性たちの存在感が強いのもこの作品の特色で、坂東のみならず、都の女性たちも物語のうえで重要な役割を担いました。坂東武士団とともに、女性たちもこの作品の主人公と言えるかもしれません。政子は主人公としては存在感が物足りなかったと述べましたが、それは単独の主人公としてという意味であり、女性たちの群像劇として考えれば、じゅうぶん存在感を示していたと思います。義経や静御前や公暁など、残念な配役もありましたが、配役にはおおむね満足しています。もっと画質・音質がよければ、とも思うのですが、これだけの名作を全話見ることができたことに満足すべきなのかもしれません。

 それにしても、1976年の『風と雲と虹と』に始まり、1978年の『黄金の日日』・1979年の『草燃える』と、理由はよく分かりませんが、1970年代後半の大河ドラマは傑作続きだなあ、と思います。1977年の大河ドラマ『花神』は、残念ながら全話残っておらず、私も未視聴なのですが、『風と雲と虹と』や『草燃える』の例もありますので、どこかの家庭で全話録画されていないかな、と願っています。『花神』は原作を読んだことがあるのですが、なかなか面白く読んだと記憶していますので、どのように映像化されたのかという意味でも、興味があります。

この記事へのコメント

みら
2010年12月29日 01:07
坂東武士の群像劇と思える位、人物像もきっちりと描かれている最高の脚本と原作ということなんでしょうね。
あの時代に作られた大河ドラマは、ナレーションか主人公の心理まで入るので,視聴者が共通の理解が出来て、分かりやすくて愉しめましたね。
役者も上手い人ばかりで、石坂浩二が大根に見えたくらいの記憶が少々残っております。
今回みたかったデス。
そろそろ、時代劇チャンネルを考えようかな~?
昨日、光のプランのオプションを外して、べーシックに変えて,あまり面白くないNHKオンデマンドを解約したので、浮いたお金で時代劇ちゃんねる?♪( ´▽`)

お正月の地上波時代劇は見られますの?
2010年12月29日 23:01
正月の地上波時代劇は、とりあえず録画はしておこうかな、と考えています。

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