大河ドラマ『龍馬伝』全体的な感想
当初は視聴率が20%を超えていたのですが、終盤になって多少盛り返したとはいえ、右肩下がりの傾向がはっきりと見て取れる視聴率の推移の結果、最終的には平均視聴率が18.7%と低迷しました。正直なところ、視聴率が右肩下がりの傾向を示したのは仕方ないかなという出来で、その要因は脚本にあるのだと考えていますが、プロデューサー・ディレクターの基本方針がかなりのところ脚本を規定しているでしょうから、プロデューサー・ディレクター・脚本家が右肩下がりの視聴率の責任を負わねばならないのかな、と思います。
脚本の問題点として、主要人物の設定が迷走したことが挙げられます。龍馬・弥太郎・半平太という三人の主要人物のうち、弥太郎の人物造形は、揺れがあったとはいえ、香川氏の演技力でなんとか見られましたが、主人公の龍馬と半平太については、このブログでもたびたび述べてきたように、人物像が定まらず、回によって人格が異なるのではないか、と思わせる描写が目立ち、とうてい演技で挽回できるような脚本・演出ではありませんでした。もちろん、人間の精神は複雑なものであり、単純に割り切れるものではありませんが、それにしても、迷走した感は否めません。
半平太については、人物像が定まらなかったという以前に、龍馬を相対的に持ち上げるためなのでしょうが、器の小さい人物として描かれてしまい、多くの人に慕われ、高く評価された人物としての描写が、吉田東洋暗殺の後しばらくの間しか見られなかったのが、なんとも残念です。この作品の最大の失敗は、半平太を矮小化して描いたことなのではないか、と思います。こんな描写にしても、龍馬を相対的に持ち上げるという効果はあまりなかったように思うのですが。
人物造形、とくに主要人物については、脚本の失敗だという印象が強いのですが、成功例もあり、岡田以蔵は、この作品における人物造形の最良の成功例ではないか、と考えています。もっとも、これは役者の好演によるところが大きい、と私は考えていますが、以蔵に限らず、この作品の出演者の多くは好演しており、弥太郎や容堂や象二郎の成功(と私は思っています)はかなりのところ演者の力量に依存していますし、人物造形が迷走してしまった半平太にしても、演者の力量によりなんとか見続けられた、というところもあります。ただ、主役の福山雅治氏については、多くの人が予想していたことでしょうが、脚本の失敗を挽回できるだけの力量がなかったのは否めません。ただ、予告を見た時点での不安が的中したというほどではなく、懸念していたほどには悪くなかったというか、むしろ健闘したのではないか、と思います。
脚本の迷走として、人物造形とも関連するのですが、大政奉還など、龍馬にとって見せ場となるような主張に唐突なところがあるなど、龍馬が自らの思想・見解を主張するにあたって、話の流れからやや浮き上がったところが見られることも挙げられます。薩長同盟という龍馬の物語では要となるべき話が、強く印象の残るものではなかったというか、淡々とした感じさえ受けたことも、脚本の問題と言えるのではないか、と思います。
多くの視聴者が関心を抱いていたであろう龍馬暗殺の描写については、かなり創作が盛り込まれましたが、正直なところ失敗だったかな、と思います。龍馬暗殺の黒幕については、多数の候補者がいる、という描写になることは事前に制作者側から明かされていましたが、決定的な黒幕については、けっきょく曖昧なまま終わりました。まあ、黒幕が誰かということではなく、龍馬は殺されるべくして殺されたという説明になっていた、と言えそうです。龍馬と薩摩藩とのつながりが史実よりも弱く、龍馬と西郷がずっと理解しあえていないような描写になっていましたから、薩摩藩、とくに終盤に登場した大久保が龍馬暗殺の黒幕になるのではないか、とも予想していたのですが、的外れな予想だったかな、と思います。
4人のヒロインに知名度の高い女優が起用されたことから、恋愛ものとしての性格が強くなるのかな、と予想していたのですが、正直なところ、メインヒロインと言うべきお龍でさえさほど目立ったとは言いがたく(お龍役の真木よう子氏はそれなりに好演したと思いますが)、これは意外でした。これならば、物語のうえでとくに必要とも思われない第4のヒロインのお元はいなくてもよかったのではないか、とも思います。ただ、お元を演じた蒼井優氏は、脚本上魅力のないヒロインを、まずまず上手く演じていたように思います。第1のヒロインである加尾は、演じた広末涼子氏を私が昔から苦手にしているということもあるのでしょうが(広末氏がアイドル時代になぜ持て囃されていたのか、当時も今もよく分かりません)、『義経』の静御前ほどではないにしても、ミスキャストだったと思います。第2のヒロインである佐那役の貫地谷しほり氏は、期待通りの好演を見せてくれましたが、この評価は私の贔屓目かもしれません。
以上、いろいろと不満点を述べることが多くなってしまいましたが、綺麗ではなく現実味のある斬り合いや、小奇麗ではなく薄汚い家屋など、演出面では見所が多く、それなりに楽しめた作品ではありました。それだけに、大河ドラマ史上有数の駄作であろう昨年の『天地人』よりも視聴率が悪かったのは残念です。ただ、全話ブルーレイディスクに保存しておくほどではなかったかな、とは思います。薩長同盟のあたりからは、正直なところブルーレイディスクに保存しておく価値はないかな、とも思っていたのですが、すでに30話以上保存していたので、惰性で最終回まで保存しました。後半になって惰性で見続けていたところも多分にあるわりには長くなってしまいましたが、これで『龍馬伝』についての感想はおおむね述べたので、今後このブログで『龍馬伝』について語ることはないでしょう。今は、1年近く見続けた作品が終了したという寂しさよりも、すでにBSハイビジョンでは第2部の放送の始まった『坂の上の雲』への期待のほうがはるかに大きい、というのが率直な気持ちです。
脚本の問題点として、主要人物の設定が迷走したことが挙げられます。龍馬・弥太郎・半平太という三人の主要人物のうち、弥太郎の人物造形は、揺れがあったとはいえ、香川氏の演技力でなんとか見られましたが、主人公の龍馬と半平太については、このブログでもたびたび述べてきたように、人物像が定まらず、回によって人格が異なるのではないか、と思わせる描写が目立ち、とうてい演技で挽回できるような脚本・演出ではありませんでした。もちろん、人間の精神は複雑なものであり、単純に割り切れるものではありませんが、それにしても、迷走した感は否めません。
半平太については、人物像が定まらなかったという以前に、龍馬を相対的に持ち上げるためなのでしょうが、器の小さい人物として描かれてしまい、多くの人に慕われ、高く評価された人物としての描写が、吉田東洋暗殺の後しばらくの間しか見られなかったのが、なんとも残念です。この作品の最大の失敗は、半平太を矮小化して描いたことなのではないか、と思います。こんな描写にしても、龍馬を相対的に持ち上げるという効果はあまりなかったように思うのですが。
人物造形、とくに主要人物については、脚本の失敗だという印象が強いのですが、成功例もあり、岡田以蔵は、この作品における人物造形の最良の成功例ではないか、と考えています。もっとも、これは役者の好演によるところが大きい、と私は考えていますが、以蔵に限らず、この作品の出演者の多くは好演しており、弥太郎や容堂や象二郎の成功(と私は思っています)はかなりのところ演者の力量に依存していますし、人物造形が迷走してしまった半平太にしても、演者の力量によりなんとか見続けられた、というところもあります。ただ、主役の福山雅治氏については、多くの人が予想していたことでしょうが、脚本の失敗を挽回できるだけの力量がなかったのは否めません。ただ、予告を見た時点での不安が的中したというほどではなく、懸念していたほどには悪くなかったというか、むしろ健闘したのではないか、と思います。
脚本の迷走として、人物造形とも関連するのですが、大政奉還など、龍馬にとって見せ場となるような主張に唐突なところがあるなど、龍馬が自らの思想・見解を主張するにあたって、話の流れからやや浮き上がったところが見られることも挙げられます。薩長同盟という龍馬の物語では要となるべき話が、強く印象の残るものではなかったというか、淡々とした感じさえ受けたことも、脚本の問題と言えるのではないか、と思います。
多くの視聴者が関心を抱いていたであろう龍馬暗殺の描写については、かなり創作が盛り込まれましたが、正直なところ失敗だったかな、と思います。龍馬暗殺の黒幕については、多数の候補者がいる、という描写になることは事前に制作者側から明かされていましたが、決定的な黒幕については、けっきょく曖昧なまま終わりました。まあ、黒幕が誰かということではなく、龍馬は殺されるべくして殺されたという説明になっていた、と言えそうです。龍馬と薩摩藩とのつながりが史実よりも弱く、龍馬と西郷がずっと理解しあえていないような描写になっていましたから、薩摩藩、とくに終盤に登場した大久保が龍馬暗殺の黒幕になるのではないか、とも予想していたのですが、的外れな予想だったかな、と思います。
4人のヒロインに知名度の高い女優が起用されたことから、恋愛ものとしての性格が強くなるのかな、と予想していたのですが、正直なところ、メインヒロインと言うべきお龍でさえさほど目立ったとは言いがたく(お龍役の真木よう子氏はそれなりに好演したと思いますが)、これは意外でした。これならば、物語のうえでとくに必要とも思われない第4のヒロインのお元はいなくてもよかったのではないか、とも思います。ただ、お元を演じた蒼井優氏は、脚本上魅力のないヒロインを、まずまず上手く演じていたように思います。第1のヒロインである加尾は、演じた広末涼子氏を私が昔から苦手にしているということもあるのでしょうが(広末氏がアイドル時代になぜ持て囃されていたのか、当時も今もよく分かりません)、『義経』の静御前ほどではないにしても、ミスキャストだったと思います。第2のヒロインである佐那役の貫地谷しほり氏は、期待通りの好演を見せてくれましたが、この評価は私の贔屓目かもしれません。
以上、いろいろと不満点を述べることが多くなってしまいましたが、綺麗ではなく現実味のある斬り合いや、小奇麗ではなく薄汚い家屋など、演出面では見所が多く、それなりに楽しめた作品ではありました。それだけに、大河ドラマ史上有数の駄作であろう昨年の『天地人』よりも視聴率が悪かったのは残念です。ただ、全話ブルーレイディスクに保存しておくほどではなかったかな、とは思います。薩長同盟のあたりからは、正直なところブルーレイディスクに保存しておく価値はないかな、とも思っていたのですが、すでに30話以上保存していたので、惰性で最終回まで保存しました。後半になって惰性で見続けていたところも多分にあるわりには長くなってしまいましたが、これで『龍馬伝』についての感想はおおむね述べたので、今後このブログで『龍馬伝』について語ることはないでしょう。今は、1年近く見続けた作品が終了したという寂しさよりも、すでにBSハイビジョンでは第2部の放送の始まった『坂の上の雲』への期待のほうがはるかに大きい、というのが率直な気持ちです。
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