ネアンデルタール人は優しかったのか?

 ネット上でたまに見かけるのが、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)は現生人類(ホモ=サピエンス)と比較して優しかったために、現生人類に滅ぼされてしまった、という見解です。私の見たかぎりでは、さすがに専門家でこのようなことを主張している人はいないようなのですが、こうした見解が主張されるのも、ネアンデルタール人の絶滅理由について現在のところ確証がなく、さまざまな説が提示されているからなのでしょう。

 ネアンデルタール人が優しいとの見解は、花が供えられていた障害者という解釈で有名になった、シャニダール洞窟のネアンデルタール人の埋葬例が根拠になっているのでしょう。しかし、ネアンデルタール人の骨には傷がひんぱんに見られることから、ネアンデルタール人は大型獣相手にかなり危険な狩猟を行なっていたと考えられ、その意味では、現代人と同じく、ネアンデルタール人には、優しさとともに勇猛さ・残忍さもが備わっていた可能性が高く、ネアンデルタール人が現生人類と比較して優しいと言えるのか、確たる証拠はまったくない、と判断すべきでしょう。

 現在、ネアンデルタール人のゲノム解読がかなりのていど進展していますので、今後、ネアンデルタール人の性格についてもあるていど分かるようになるかもしれません。ただ、現時点では、性格の決定に関与する遺伝子はほとんど分かっていないでしょうし、性格はかなりのところ遺伝子に規定されるとしても、環境の影響を検証するのはひじょうに難しく、しばらくは、ネアンデルタール人の性格について確たることは言えない、という状況が続くのでしょう。

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