ネアンデルタール人と現生人類との交雑?
ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)のゲノムのドラフト配列を提示し、ネアンデルタール人と現生人類(ホモ=サピエンス)との交雑の可能性を指摘した研究(Burbano et al., 2010、Green et al., 2010)が報道(Gibbons., 2010)されました。朝日新聞やナショナルジオグラフィックなどでも報道されています。この研究が掲載された『サイエンス』では、特集サイトが設置されています。ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑があったか否かという問題は、古人類学界ではたいへん関心が高く、一般社会でもわりと関心が高いだけに、かなり注目されているようです。まだ、論文の要約と日本語の報道を読んだくらいですが、とりあえず現時点での雑感を述べ、論文をきちんと読んでから、再度この問題について記事にするつもりです。
この研究では、クロアチアのヴィンデヤ洞窟で発見された、38000年以上前のネアンデルタール人の3個体分の人骨から得られたゲノムの配列が解析され、フランス・中国・パプアニューギニア・アフリカ南部と西部の5人の現代人のゲノムと比較されました。その結果、ネアンデルタール人はサハラ砂漠以南の現代アフリカ人よりも、現代の非アフリカ人のほうとより多くの遺伝的異形を共有していることが判明し、現生人類が出アフリカを果たし、まだ各地域集団に分岐する前に、おそらくは中東でネアンデルタール人と交雑したのではないか、と推測されています。現代の非アフリカ人のゲノムのうち、1~4%はネアンデルタール人に由来しているのではないか、と推測されています。また、新陳代謝や認識や骨格の発達に関わる遺伝子など、ネアンデルタール人とは異なる現生人類特有の遺伝子も明らかになっています。
これまで、遺伝学の分野ではネアンデルタール人と現生人類との交雑を否定する見解のほうが優勢でしたが、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を認める見解は、遺伝学においてもそれほど珍しいものではなく(関連記事)、今回の研究結果もとくに意外なものとは言えないでしょう。ネアンデルタール人と現生人類との交雑という指摘も注目されますが、現生人類特有の遺伝子が明らかになったことも興味深く、現生人類の遺伝的定義への道を大きく切り拓いたという意味でも、たいへん意義深い研究と言えそうです。
ただ、国立科学博物館人類史研究グループの篠田謙一グループ長(分子人類学)が指摘するように、「(現生人類とネアンデルタール人が)交雑したと確定させるには、より古い時期のネアンデルタール人のゲノムを調べたり、ヒトがアフリカを出た時期を再検討したりするなどもう一段階必要だ」ということでもあるでしょう。もっと決定的な現生人類とネアンデルタール人との交雑の証拠が検出されるのではないか、と今後の研究の進展が大いに期待されます。
形質人類学の分野から、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を熱心に主張してきた、ネアンデルタール人研究の世界的権威であるエリック=トリンカウス博士は、これまで自分の見解はDNA解析によって否定されてきたが、ようやく汚名をそそぐことができたようだ、とこの研究を歓迎し、現代人がネアンデルタール人より受け継いでいるDNAは、1~4%よりもっと多く、20%になる可能性もある、と指摘しています。現代人のミトコンドリアDNAとY染色体には、ネアンデルタール人由来のものがなさそうですから、さすがにトリンカウス博士のこの見積もりは過大評価かな、と思います。今後は、ネアンデルタール人だけではなく、他の人類と現生人類との交雑を示す証拠が蓄積されていくことを期待しています。
参考文献:
Burbano HA. et al.(2010): Targeted Investigation of the Neandertal Genome by Array-Based Sequence Capture. Science, 328, 5979, 723-725.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1188046
Gibbons A.(2010): Close Encounters of the Prehistoric Kind. Science, 328, 5979, 680.
http://dx.doi.org/10.1126/science.328.5979.680
Green RE. et al.(2010): A Draft Sequence of the Neandertal Genome. Science, 328, 5979, 710-722.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1188021
この研究では、クロアチアのヴィンデヤ洞窟で発見された、38000年以上前のネアンデルタール人の3個体分の人骨から得られたゲノムの配列が解析され、フランス・中国・パプアニューギニア・アフリカ南部と西部の5人の現代人のゲノムと比較されました。その結果、ネアンデルタール人はサハラ砂漠以南の現代アフリカ人よりも、現代の非アフリカ人のほうとより多くの遺伝的異形を共有していることが判明し、現生人類が出アフリカを果たし、まだ各地域集団に分岐する前に、おそらくは中東でネアンデルタール人と交雑したのではないか、と推測されています。現代の非アフリカ人のゲノムのうち、1~4%はネアンデルタール人に由来しているのではないか、と推測されています。また、新陳代謝や認識や骨格の発達に関わる遺伝子など、ネアンデルタール人とは異なる現生人類特有の遺伝子も明らかになっています。
これまで、遺伝学の分野ではネアンデルタール人と現生人類との交雑を否定する見解のほうが優勢でしたが、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を認める見解は、遺伝学においてもそれほど珍しいものではなく(関連記事)、今回の研究結果もとくに意外なものとは言えないでしょう。ネアンデルタール人と現生人類との交雑という指摘も注目されますが、現生人類特有の遺伝子が明らかになったことも興味深く、現生人類の遺伝的定義への道を大きく切り拓いたという意味でも、たいへん意義深い研究と言えそうです。
ただ、国立科学博物館人類史研究グループの篠田謙一グループ長(分子人類学)が指摘するように、「(現生人類とネアンデルタール人が)交雑したと確定させるには、より古い時期のネアンデルタール人のゲノムを調べたり、ヒトがアフリカを出た時期を再検討したりするなどもう一段階必要だ」ということでもあるでしょう。もっと決定的な現生人類とネアンデルタール人との交雑の証拠が検出されるのではないか、と今後の研究の進展が大いに期待されます。
形質人類学の分野から、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を熱心に主張してきた、ネアンデルタール人研究の世界的権威であるエリック=トリンカウス博士は、これまで自分の見解はDNA解析によって否定されてきたが、ようやく汚名をそそぐことができたようだ、とこの研究を歓迎し、現代人がネアンデルタール人より受け継いでいるDNAは、1~4%よりもっと多く、20%になる可能性もある、と指摘しています。現代人のミトコンドリアDNAとY染色体には、ネアンデルタール人由来のものがなさそうですから、さすがにトリンカウス博士のこの見積もりは過大評価かな、と思います。今後は、ネアンデルタール人だけではなく、他の人類と現生人類との交雑を示す証拠が蓄積されていくことを期待しています。
参考文献:
Burbano HA. et al.(2010): Targeted Investigation of the Neandertal Genome by Array-Based Sequence Capture. Science, 328, 5979, 723-725.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1188046
Gibbons A.(2010): Close Encounters of the Prehistoric Kind. Science, 328, 5979, 680.
http://dx.doi.org/10.1126/science.328.5979.680
Green RE. et al.(2010): A Draft Sequence of the Neandertal Genome. Science, 328, 5979, 710-722.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1188021
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