フロレシエンシスについての講演会
昨日、国立科学博物館上野本館にて、常設展の改装を記念した、ホモ=フロレシエンシスについての講演会が開催されました。
http://www.kahaku.go.jp/event/2010/04human/
これまでにも色々とご教示いただいている方からこの講演会のことも教えていただき、申し込んでみたところ運良く出席できました。インドネシアの国立考古学研究センター所長のトニー=ジュビアントノ博士、同研究センターのトーマス=スティクナ博士、オーストラリアのウォロンゴン大学教授のマイク=モーウッド博士を迎えての講演があり、主催した国立科学博物館人類研究部からは、馬場悠男前部長の開会の挨拶と海部陽介研究主幹からの報告がありました。いずれも第一線でフロレシエンシスを研究している人々で、このような豪華な講演会に出席できたのは幸運でした。
開演前に、先月放送されたフロレシエンシスについての特集番組
https://sicambre.seesaa.net/article/201003article_27.html
でも取り上げられた、フロレシエンシスの実物大の復元像を見ました。この復元像の置かれている人類進化の展示室はなかなかよく、その他にも国立科学博物館の展示には興味深いものが多く、また訪れたいものです。国立科学博物館には親子連れが多く、これはなかなかよいことだと思います。日本のような狭い国で重要なのは人材であり、子供の頃から自然科学に親しむ日本人が増えるのは歓迎すべきだ、と思います。さて、質疑応答も含めた講演会の内容ですが、とくに印象に残ったことを、メモを参照しつつ以下に簡潔に列挙していきます。
●トニー=ジュビアント所長の話からは、フロレシエンシスについての研究が学際的・国際的なものであることがよく分かり、フロレシエンシスへの注目の高さが示されている、と思います。
●フロレシエンシスの正基準標本であるLB1は、国立科学博物館の研究では、じゅうらいの推測よりもやや高く身長110cmとなり、骨盤の形態はホモ=エレクトスと似ていて、怪我の痕跡もある、とのことです。
●フロレシエンシスの脚は短く、速く走れなかっただろう、と推測されます。
●フロレシエンシスの人骨が発見されたリアン=ブア洞窟の近くには川があり、水が得られるというだけではなく、石材の供給源にもなっているそうです。
●DNAの分析は何度か試みられたものの、いずれも失敗したそうです。
●マイク=モーウッド博士の話の要点の一つは、広い視点からの研究です。リアン=ブア洞窟で発見された更新世の人骨群だけではなく、時代・地理的範囲を拡大して、人類以外の動物骨も対象とし、古環境の様相も考察するなど、対象範囲の広く総合的な研究への意欲が強くうかがわれました。アジア起源の動物は、スラウェシ島と比較してフローレス島のほうがずっと少なく、フローレス島への到達の困難さが推定されます。スラウェシ島には原始的特徴を保っている動物が多く、海流も考慮に入れると、フロレシエンシスの祖先はスラウェシ島からフローレス島に到達した可能性が考えられます。そのスラウェシ島では、石器が発見された後に、フローレス島にも存在したステゴドンや巨大亀やオオトカゲが見られなくなるそうです。なお、更新世のフローレス島では、人類は直接的にはあまり動物相に影響を与えなかったようです。
●マイク=モーウッド博士の話のもう一つの要点は、リアン=ブア洞窟での発見のうち、更新世の地層からのものだけではなく、完新世の地層からのものも大いに注目すべきだ、ということです。リアン=ブア洞窟では、火山灰層を挟んでその下に更新世の地層が、その上にと完新世の地層が存在します。完新世の地層からは、現生人類(ホモ=サピエンス)の人骨が発見されており、中石器時代や新石器時代の石器や顔料などが発見されており、埋葬も確認されます。一方、LB1については今のところ埋葬の痕跡は確認されていません。リアン=ブア洞窟での現生人類最古の痕跡は、9500年前にさかのぼります。リアン=ブア洞窟の更新世の地層と完新世の地層との大きな違いは動物相で、猪など完新世の地層で発見された動物は、現生人類が持ち込んだと推定されます。なお、完新世の骨は硬いのですが、更新世の骨は脆いそうです。
●フロレシエンシスの人類系統樹における位置づけに関して、フロレシエンシスは原始的な特徴を残すホモ=ハビリスのような人類から進化した、とモーウッド博士は考えています。ただモーウッド博士は、エレクトスが島嶼化などにより小型化した可能性も否定はしていません。またモーウッド博士は、フロレシエンシスがハビリスの子孫だとしても、島嶼化の影響を受けている可能性を指摘しました。
http://www.kahaku.go.jp/event/2010/04human/
これまでにも色々とご教示いただいている方からこの講演会のことも教えていただき、申し込んでみたところ運良く出席できました。インドネシアの国立考古学研究センター所長のトニー=ジュビアントノ博士、同研究センターのトーマス=スティクナ博士、オーストラリアのウォロンゴン大学教授のマイク=モーウッド博士を迎えての講演があり、主催した国立科学博物館人類研究部からは、馬場悠男前部長の開会の挨拶と海部陽介研究主幹からの報告がありました。いずれも第一線でフロレシエンシスを研究している人々で、このような豪華な講演会に出席できたのは幸運でした。
開演前に、先月放送されたフロレシエンシスについての特集番組
https://sicambre.seesaa.net/article/201003article_27.html
でも取り上げられた、フロレシエンシスの実物大の復元像を見ました。この復元像の置かれている人類進化の展示室はなかなかよく、その他にも国立科学博物館の展示には興味深いものが多く、また訪れたいものです。国立科学博物館には親子連れが多く、これはなかなかよいことだと思います。日本のような狭い国で重要なのは人材であり、子供の頃から自然科学に親しむ日本人が増えるのは歓迎すべきだ、と思います。さて、質疑応答も含めた講演会の内容ですが、とくに印象に残ったことを、メモを参照しつつ以下に簡潔に列挙していきます。
●トニー=ジュビアント所長の話からは、フロレシエンシスについての研究が学際的・国際的なものであることがよく分かり、フロレシエンシスへの注目の高さが示されている、と思います。
●フロレシエンシスの正基準標本であるLB1は、国立科学博物館の研究では、じゅうらいの推測よりもやや高く身長110cmとなり、骨盤の形態はホモ=エレクトスと似ていて、怪我の痕跡もある、とのことです。
●フロレシエンシスの脚は短く、速く走れなかっただろう、と推測されます。
●フロレシエンシスの人骨が発見されたリアン=ブア洞窟の近くには川があり、水が得られるというだけではなく、石材の供給源にもなっているそうです。
●DNAの分析は何度か試みられたものの、いずれも失敗したそうです。
●マイク=モーウッド博士の話の要点の一つは、広い視点からの研究です。リアン=ブア洞窟で発見された更新世の人骨群だけではなく、時代・地理的範囲を拡大して、人類以外の動物骨も対象とし、古環境の様相も考察するなど、対象範囲の広く総合的な研究への意欲が強くうかがわれました。アジア起源の動物は、スラウェシ島と比較してフローレス島のほうがずっと少なく、フローレス島への到達の困難さが推定されます。スラウェシ島には原始的特徴を保っている動物が多く、海流も考慮に入れると、フロレシエンシスの祖先はスラウェシ島からフローレス島に到達した可能性が考えられます。そのスラウェシ島では、石器が発見された後に、フローレス島にも存在したステゴドンや巨大亀やオオトカゲが見られなくなるそうです。なお、更新世のフローレス島では、人類は直接的にはあまり動物相に影響を与えなかったようです。
●マイク=モーウッド博士の話のもう一つの要点は、リアン=ブア洞窟での発見のうち、更新世の地層からのものだけではなく、完新世の地層からのものも大いに注目すべきだ、ということです。リアン=ブア洞窟では、火山灰層を挟んでその下に更新世の地層が、その上にと完新世の地層が存在します。完新世の地層からは、現生人類(ホモ=サピエンス)の人骨が発見されており、中石器時代や新石器時代の石器や顔料などが発見されており、埋葬も確認されます。一方、LB1については今のところ埋葬の痕跡は確認されていません。リアン=ブア洞窟での現生人類最古の痕跡は、9500年前にさかのぼります。リアン=ブア洞窟の更新世の地層と完新世の地層との大きな違いは動物相で、猪など完新世の地層で発見された動物は、現生人類が持ち込んだと推定されます。なお、完新世の骨は硬いのですが、更新世の骨は脆いそうです。
●フロレシエンシスの人類系統樹における位置づけに関して、フロレシエンシスは原始的な特徴を残すホモ=ハビリスのような人類から進化した、とモーウッド博士は考えています。ただモーウッド博士は、エレクトスが島嶼化などにより小型化した可能性も否定はしていません。またモーウッド博士は、フロレシエンシスがハビリスの子孫だとしても、島嶼化の影響を受けている可能性を指摘しました。
この記事へのコメント
来月開催の宮城県考古学会でも日本列島最古の人類についての集中的な講演が行われます。長野県竹佐、岩手県金取など、古いといわれている遺跡の研究が発表されます。おいでませ、宮城県へ、です。場所は仙台市博物館です。
宮城県考古学会の講演も面白そうですね。日程があえば、参加したいと考えています。