夫婦別姓は日本の伝統文化?

 夫婦別姓は日本の伝統文化であり、夫婦同姓は明治維新以降のわずか百余年の「伝統」や「習慣」であるとして、「産経新聞をはじめとする保守系言論」を批判する記事を読みました。
http://blogs.yahoo.co.jp/lifeartinstitute/40998284.html
近現代の日本における夫婦同姓は、多分に「日本の伝統社会」の観念・習慣に根ざしたものだ、との私見はこれまでに何度も述べてきたので、
https://sicambre.seesaa.net/article/200802article_7.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200802article_17.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200802article_30.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_17.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200904article_24.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200909article_13.html
上記の記事の歴史認識の間違いをこの記事で改めて詳しく述べることはしませんが、「北条政子」を根拠の一つとする夫婦同姓伝統論の否定はすっかり浸透しているのだなあ、と改めて思ったしだいです。

 上記の記事では、「日本」も「中国」・「朝鮮」と同じく儒教文化圏としてまとめられ、前近代における夫婦同姓はありえないとされていますが、前近代において、「日本」では「中国」や「朝鮮」の男系宗族社会とはひじょうに異なるイエ社会が形成されたのだと認識することが、夫婦別姓をめぐる歴史認識の問題ではまず肝心なのだと思います。イエ社会への移行に伴う、苗字(名字)・家名の成立および定着と、苗字と姓(氏)との混同というか、姓(氏)の苗字への吸収と、夫婦別姓(氏)にして夫婦同苗字という前近代における「日本の伝統社会」の在り様を前提として考えると、復古を掲げた明治政府が、当初は古の制度である夫婦別姓(氏)を掲げながら、国民の多数の支持を得られず、夫婦同姓になったことが理解しやすいのではないか、と思います。また、そうでありながらも、法制用語としては姓でも苗字でもなく「氏」が採用されたところに、明治政府の復古志向がうかがえるように思われます。

 また、上記の記事では、「産経新聞をはじめとする保守系言論」では、「江戸時代までの自国文化を未開、野蛮と卑下」されると指摘されていますが、これは違うのではないかと思います。最近の「産経新聞をはじめとする保守系言論」の主流は、江戸時代賛美でしょうし、さらに言えば、江戸時代にかぎらず、縄文時代にまでさかのぼって「日本」なるものを見出し、その優秀性を賞賛する傾向が強いように思われます。なお、この記事は、上記の記事で示された歴史観を批判するものではありますが、「産経新聞をはじめとする保守系言論」の擁護になっているかというと、おそらくそうではないでしょう。なぜかというと、「産経新聞をはじめとする保守系言論」と私とでは、「伝統社会」の意味合いにかなりの違いがありそうだからです。

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